いうまでもなく東京は、田舎者にとって憧れの大都会である。花のお江戸というだけあって、トリミングサロンだかヘアサロンだか見分けがつかないこともあれば、とても興味深い人々もいる。
ある日のこと、ファミレスにオバタリアン軍団がドカドカと入ってきた。
「私はドリンクバー!」
「私もー!」
「私もー!」
「私はアイスティ!」
「えーーーーーーっ!?」×5名
おばちゃん、それはちがうよ。ドリンクバーだと180円で飲み放題だけど、単品で注文すると270円になっちゃうんだよ。取り消した方がいいんじゃない? と思ってはみたものの、断固アイスティを注文する強い意志を見せつけられた。人間、ブレてはいけない。頭が下がる思いである。
またある日のこと、いつものように居酒屋で独り悲しい酒を飲んでいると、真後ろの席から若いカップルの会話が聞こえてきた。
「へぇ〜、研修医なんだ」
「うん」
「内科? 外科?」
「外科」
「研修医って大変なんだよね」
「うん」
「へぇ〜、すごいねぇ」
「うん」
明らかに出会い系サイトで知り合った者同士の会話だ。それにしてもこの噛み合わない言葉のキャッチボールはどうにかならないものか。こうして意味のない会話を延々と続けたあと、二人はどこへ消えて行くのだろう。そんなこたぁ知ったこっちゃないが、このカップルの忍耐力には拍手を送りたい。
そしてまたある日のこと、セミナー会場である六本木へ向かうために駅へと急いでいた。ふと気がつくと、ガードレール沿いの生垣の向こう(車道側)から、ホームレスのおじいさんがゆっくりと立ち上がった。それもズボンをもぞもぞ上げながら。
野グソをしていたのだ。駅のまん前で。バスターミナルからも、タクシー乗り場からも、そばを通る車からも、交番からも丸見えである。
このホームレスのおじいさんにはとてもかなわない。赤い彗星にもできないことを、ものの見事にやってのけたのだ。アッパレというほかない。この赤い彗星もいつか必ずやってやる! でもちょっと悲しくなった。
2007年02月19日
髪がえらいことに
大事件である。命より大切な髪が爆発した。
今回の東京出張では、写真を撮られる機会がやたらと多かった。ところがこの赤い彗星、写真を撮られるのが大嫌いときている。というのも、ごく普通の顔なら50回に1回、笑顔なら100回に1回しかうまく撮れないからだ。
「ハイ、チーズ」といおうが「ハイ、キムチ」といおうが、カメラを向けられた途端に顔が凍りついてしまい、とても人様にお見せできるような写真にはならない。アイリーンちゃんも「ハイ、イー・エフ・ティー」と掛け声をかけてくれたが、やはり見るも無残な結果に終わってしまった。
あれほど厳しく禁じていたにもかかわらず、このブログの右上にある写真をクリックし、気分を害して救急車で運ばれた人がいるとも聞いている。
このままではいけない。これ以上被害者を増やすわけにはいかない。そう考えた赤い彗星、まずはこの髪を何とかするために、雨の中を傘も差さずに走り出した。そして最初に目に入ったヘアサロンの中へびしょ濡れのまま駆け込んだ。
だが、どこか様子がおかしい。何がおかしいかって、犬がカットされたりシャンプーされたりしているのだ。どうやらヘアサロンではなく、トリミングサロンに飛び込んでしまったらしい。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
受付の女性が親切に奥の方へ案内してくれた。いいだろう。雨の中を走ってきたんだ。この際、トリマーだろうとヘアデザイナーだろうと関係ない。とにかくイイ男、もしくはイイ犬にしてもらおうじゃないか。
「どのようにいたしましょうか」
「イイ男にしてほしいワン!」
素人が口を出しても、きっとロクなことにならないだろう。ここはトリマーの先生にお任せするに限る。
しばらくウトウトしているうちに終わったようだ。だがしかし、鏡に映った自分の姿に愕然とした。髪が、命より大切な髪が爆発している。トリマーの先生はこの赤い彗星をどんな犬にしたいと思ったのだろう。
「場所によって5センチから8センチほどカットさせていただきました」
そんなにカットする髪があったっけ? それはともかく、これはえらいことになったぞ。こんな髪型をキープできるのだろうか。とてもそんな自信などない。ど、どうしよう・・・。
そこでみなさんにお願いがある。もはやみなさんの知っている赤い彗星ではない。誤ってトリミングサロンに飛び込んでしまった哀れな赤い彗星を、どうか笑わないでやってほしい。心からお願いする。これ、このとおり。m(_ _)m
今度はトリマーではなく、腕のいい形成外科医を探すことにしよう。
今回の東京出張では、写真を撮られる機会がやたらと多かった。ところがこの赤い彗星、写真を撮られるのが大嫌いときている。というのも、ごく普通の顔なら50回に1回、笑顔なら100回に1回しかうまく撮れないからだ。
「ハイ、チーズ」といおうが「ハイ、キムチ」といおうが、カメラを向けられた途端に顔が凍りついてしまい、とても人様にお見せできるような写真にはならない。アイリーンちゃんも「ハイ、イー・エフ・ティー」と掛け声をかけてくれたが、やはり見るも無残な結果に終わってしまった。
あれほど厳しく禁じていたにもかかわらず、このブログの右上にある写真をクリックし、気分を害して救急車で運ばれた人がいるとも聞いている。
このままではいけない。これ以上被害者を増やすわけにはいかない。そう考えた赤い彗星、まずはこの髪を何とかするために、雨の中を傘も差さずに走り出した。そして最初に目に入ったヘアサロンの中へびしょ濡れのまま駆け込んだ。
だが、どこか様子がおかしい。何がおかしいかって、犬がカットされたりシャンプーされたりしているのだ。どうやらヘアサロンではなく、トリミングサロンに飛び込んでしまったらしい。
「いらっしゃいませ。どうぞこちらへ」
受付の女性が親切に奥の方へ案内してくれた。いいだろう。雨の中を走ってきたんだ。この際、トリマーだろうとヘアデザイナーだろうと関係ない。とにかくイイ男、もしくはイイ犬にしてもらおうじゃないか。
「どのようにいたしましょうか」
「イイ男にしてほしいワン!」
素人が口を出しても、きっとロクなことにならないだろう。ここはトリマーの先生にお任せするに限る。
しばらくウトウトしているうちに終わったようだ。だがしかし、鏡に映った自分の姿に愕然とした。髪が、命より大切な髪が爆発している。トリマーの先生はこの赤い彗星をどんな犬にしたいと思ったのだろう。
「場所によって5センチから8センチほどカットさせていただきました」
そんなにカットする髪があったっけ? それはともかく、これはえらいことになったぞ。こんな髪型をキープできるのだろうか。とてもそんな自信などない。ど、どうしよう・・・。
そこでみなさんにお願いがある。もはやみなさんの知っている赤い彗星ではない。誤ってトリミングサロンに飛び込んでしまった哀れな赤い彗星を、どうか笑わないでやってほしい。心からお願いする。これ、このとおり。m(_ _)m
今度はトリマーではなく、腕のいい形成外科医を探すことにしよう。
2007年02月16日
陽開カイロプラクティック
神奈川県横浜市に、山中英司(やまなか・えいし)先生が院長を務める『陽開(ひかい)カイロプラクティック』がある。
中山英司先生は、RMIT大学カイロプラクティック学科日本校を卒業され、カイロプラクティックの中でもきわめて非侵襲的なアクチベータ・メソッドを中心に、心身条件反射療法を行っておられる。
そんな中山英司先生がTMSジャパン会員になってくださり、TMSジャパン・メソッドも受講してくださった。また、ご自身のブログでも過分なる感想を書いてくださった。とてもありがたいことである。
少々遅くなってしまったが、『陽開カイロプラクティック』をTMSジャパン⇒「リンク」⇒「TMS関連」と「TMSネットワーク」に追加した。お近くの方はぜひともご相談していただきたい。
山中先生、まだまだ未熟者ではございますが、どうかこれを機会にご指導ご鞭撻のほどをよろしく願い申し上げます。m(_ _)m
中山英司先生は、RMIT大学カイロプラクティック学科日本校を卒業され、カイロプラクティックの中でもきわめて非侵襲的なアクチベータ・メソッドを中心に、心身条件反射療法を行っておられる。
そんな中山英司先生がTMSジャパン会員になってくださり、TMSジャパン・メソッドも受講してくださった。また、ご自身のブログでも過分なる感想を書いてくださった。とてもありがたいことである。
少々遅くなってしまったが、『陽開カイロプラクティック』をTMSジャパン⇒「リンク」⇒「TMS関連」と「TMSネットワーク」に追加した。お近くの方はぜひともご相談していただきたい。
山中先生、まだまだ未熟者ではございますが、どうかこれを機会にご指導ご鞭撻のほどをよろしく願い申し上げます。m(_ _)m
2007年02月15日
EFT(2)
EFT-Japan 代表にお目にかかりたかったのは、感謝の言葉を伝えるだけでなく、もうひとつ大きな目的があった。
EFTとはエネルギー療法に分類されるもので、もともとTFTから発展してきた方法である。詳しく知りたい方はこの4冊を順番にご覧になっていただくとして、
TMSジャパン・メソッドで教えているEFTは、ほんの基本的なことでしかない。EFT-Japan のホームページやブログを見てもわかるように、今ではもっともっと進化している。実はそれを世に広めようと考えていたのだ。
しかし、いくら会いたいと思っていても、アイリーンちゃんに会うのは現実的にかなり困難だ。なぜなら、彼女は数年前からハワイへ移住していて、たとえセミナーのために東京へ来たとしても、この赤い彗星のスケジュールと合わなかったからである。
ところが昨年、アイリーンちゃんが日本に戻ってきてくれた。おまけに今月は東京でセミナーを開催するという。それもこの赤い彗星が東京にいる間にである。
こんな偶然はめったにあるものではない。おそらく数年に1度あるかないかだろう。まさか、A助教授が力ずくでセッティングしたんじゃないだろうなぁ。
ま、いずれにしても、いくつもの偶然が重なったことに加え、A助教授のお力添えで念願が叶ったわけである。心から感謝したい。
で、初対面の日は白金台、A助教授のお仲間約10名と一緒だった。当然ながら、女神のようなアイリーンちゃんは引っ張りだこで大忙し。この赤い彗星とはあまりお話ができなかった。
これではこちらが考えていた目的が達成できない。そこで今後のスケジュールを聴き出し、無礼を承知の上で帰る日を変更してもらい、別の日にお時間を作っていただいた。

(大切なのは「愛と思いやり」「原点に戻る」「依存心を持たせない」です)
アイリーンちゃんにはとても多くのことを学ばせていただいた。この場を借りて心より厚くお礼申し上げます。本当にありがとうございました。m(_ _)m
別れ際にまたハグをしていただいた。今度はギューと力を込めて抱きしめてくれた。嬉しいものである。
EFTとはエネルギー療法に分類されるもので、もともとTFTから発展してきた方法である。詳しく知りたい方はこの4冊を順番にご覧になっていただくとして、
TMSジャパン・メソッドで教えているEFTは、ほんの基本的なことでしかない。EFT-Japan のホームページやブログを見てもわかるように、今ではもっともっと進化している。実はそれを世に広めようと考えていたのだ。
しかし、いくら会いたいと思っていても、アイリーンちゃんに会うのは現実的にかなり困難だ。なぜなら、彼女は数年前からハワイへ移住していて、たとえセミナーのために東京へ来たとしても、この赤い彗星のスケジュールと合わなかったからである。
ところが昨年、アイリーンちゃんが日本に戻ってきてくれた。おまけに今月は東京でセミナーを開催するという。それもこの赤い彗星が東京にいる間にである。
こんな偶然はめったにあるものではない。おそらく数年に1度あるかないかだろう。まさか、A助教授が力ずくでセッティングしたんじゃないだろうなぁ。
ま、いずれにしても、いくつもの偶然が重なったことに加え、A助教授のお力添えで念願が叶ったわけである。心から感謝したい。
で、初対面の日は白金台、A助教授のお仲間約10名と一緒だった。当然ながら、女神のようなアイリーンちゃんは引っ張りだこで大忙し。この赤い彗星とはあまりお話ができなかった。
これではこちらが考えていた目的が達成できない。そこで今後のスケジュールを聴き出し、無礼を承知の上で帰る日を変更してもらい、別の日にお時間を作っていただいた。
(大切なのは「愛と思いやり」「原点に戻る」「依存心を持たせない」です)
アイリーンちゃんにはとても多くのことを学ばせていただいた。この場を借りて心より厚くお礼申し上げます。本当にありがとうございました。m(_ _)m
別れ際にまたハグをしていただいた。今度はギューと力を込めて抱きしめてくれた。嬉しいものである。
2007年02月13日
EFT(1)
行きつけのヘアサロンが閉まっていたのに帰らなかったのは、実はある人物に会うという重要な目的があったからだ。
命より大切な髪を犠牲にしてまで会わなければならなかった人物、それはEFT-Japan代表のアイリーンちゃんである。

(あの〜右腕に何か大きなものが当たるんですけど何でせう)
ご承知のように、TMSジャパン・メソッドでは昔からEFTをひとつのオプションとして取り入れているし、2004年にEFT-Japan が立ち上がるやいなや、速攻でリンク依頼のメールをさせていただいた。すると思いがけず、EFT-Japanの方でもリンクしてくださり、とてもありがたく思った。
また、彼女が『心にタッピング−EFTエネルギー療法』を出版したのも嬉しかったが、その挿絵をM・Eさんが描いてくれたのも嬉しかった。
(TMSジャパン・メソッド受講者はこの本を読んで復習することを強くお勧めしたい)
いつかお会いして一言お礼を述べたいと思ってはいたものの、引っ込み思案で恥ずかしがり屋の赤い彗星である。とても声をかけることなどできなかった。
そんなある日、いつもお世話になっている某有名私立医大のA助教授がアイリーンちゃんと会う段取りを整えてくれた。とてもありがたいことである。いくら恥ずかしがり屋とはいえ、赤い彗星を名乗っている以上、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「はじめまして。わたくし、赤い彗星と申します。ずっとお会いしたかったんです」
「私もですよ〜。3年越しでようやく願いが叶いましたねぇ〜」
握手をしようと思って右手を差し出すと、アイリーンちゃんは両手を広げてこの赤い彗星を包み込んでくれた。いわゆるハグというやつだ。ついでにパフパフしてほしい気もしたけど、周囲に大勢の人がいたので遠慮しておいた。でも心の底から嬉しかった。久しぶりに感動した。
ハグの効用については薄々感づいていたし、それらしき論文もチラホラと出てきている昨今である。もちろんアイリーンちゃんもよいことだという。あとで教えてもらった彼女のブログに、感動的な動画(音が出るので注意)が紹介されているので一度ご覧になっていただきたい。
この動画は世界中で1千万人以上が見ているようだ。こういうキャンペーンが広がっていけば、もしかするとこの地球上から戦争がなくなるのではなかろうか。
命より大切な髪を犠牲にしてまで会わなければならなかった人物、それはEFT-Japan代表のアイリーンちゃんである。
(あの〜右腕に何か大きなものが当たるんですけど何でせう)
ご承知のように、TMSジャパン・メソッドでは昔からEFTをひとつのオプションとして取り入れているし、2004年にEFT-Japan が立ち上がるやいなや、速攻でリンク依頼のメールをさせていただいた。すると思いがけず、EFT-Japanの方でもリンクしてくださり、とてもありがたく思った。
また、彼女が『心にタッピング−EFTエネルギー療法』を出版したのも嬉しかったが、その挿絵をM・Eさんが描いてくれたのも嬉しかった。
(TMSジャパン・メソッド受講者はこの本を読んで復習することを強くお勧めしたい)
いつかお会いして一言お礼を述べたいと思ってはいたものの、引っ込み思案で恥ずかしがり屋の赤い彗星である。とても声をかけることなどできなかった。
そんなある日、いつもお世話になっている某有名私立医大のA助教授がアイリーンちゃんと会う段取りを整えてくれた。とてもありがたいことである。いくら恥ずかしがり屋とはいえ、赤い彗星を名乗っている以上、このチャンスを逃すわけにはいかない。
「はじめまして。わたくし、赤い彗星と申します。ずっとお会いしたかったんです」
「私もですよ〜。3年越しでようやく願いが叶いましたねぇ〜」
握手をしようと思って右手を差し出すと、アイリーンちゃんは両手を広げてこの赤い彗星を包み込んでくれた。いわゆるハグというやつだ。ついでにパフパフしてほしい気もしたけど、周囲に大勢の人がいたので遠慮しておいた。でも心の底から嬉しかった。久しぶりに感動した。
ハグの効用については薄々感づいていたし、それらしき論文もチラホラと出てきている昨今である。もちろんアイリーンちゃんもよいことだという。あとで教えてもらった彼女のブログに、感動的な動画(音が出るので注意)が紹介されているので一度ご覧になっていただきたい。
この動画は世界中で1千万人以上が見ているようだ。こういうキャンペーンが広がっていけば、もしかするとこの地球上から戦争がなくなるのではなかろうか。
2007年02月10日
髪が
いつものように、髪を切るために東京へ飛んだ。ところが驚いたことに、行きつけのヘアサロンが改装中だった。
をいをい、それならそうと連絡くらいしてくれても・・・というのは虫がよすぎるってもんだ。いつ来るかわからない謎のサングラス男に知らせる義理などない。それに連絡先も知らないはず。事前に予知できなかったニュータイプの成り損ないの方が悪い。
しかし参った。いっそのことこのまま帰っちまおうか。もし今月髪を切らなければ次は来月になる。それも大阪へ行ったあとだ。これはマズイことになったぞ。
月に1センチあまり伸びると仮定すれば、少し見栄を張って2ヶ月で2センチ強か。この赤い彗星の毛根、はたして2センチの髪の重さに耐えられるだろうか。いかんせん、お見かけどおりの金髪だから。
限りなくビミョ〜。
をいをい、それならそうと連絡くらいしてくれても・・・というのは虫がよすぎるってもんだ。いつ来るかわからない謎のサングラス男に知らせる義理などない。それに連絡先も知らないはず。事前に予知できなかったニュータイプの成り損ないの方が悪い。
しかし参った。いっそのことこのまま帰っちまおうか。もし今月髪を切らなければ次は来月になる。それも大阪へ行ったあとだ。これはマズイことになったぞ。
月に1センチあまり伸びると仮定すれば、少し見栄を張って2ヶ月で2センチ強か。この赤い彗星の毛根、はたして2センチの髪の重さに耐えられるだろうか。いかんせん、お見かけどおりの金髪だから。
限りなくビミョ〜。
タグ:ニュータイプ
2007年02月07日
メディア・リテラシーの壁
『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』が出版され、ホームページを立ち上げ、『腰痛は<怒り>である』を上梓してTMS理論が話題になったころ、インターネット上で強烈なバッシングを受けたことを覚えているだろうか。
従来の古典的な常識や、メディア情報を信じて疑わない人々による情け容赦のない誹謗中傷で、とても多くの人々が傷ついたし、この赤い彗星もほとほと疲れ果ててしまった。
日本最大の腰痛掲示板「腰痛の広場」が閉鎖に至ったのも、実はこの赤い彗星に責任の一端があるのではないかと考え、管理人の見城昌平さんに直接会って謝ったりもした。心の広い見城さんは「まったくの個人的理由です」とおっしゃってくれたが、今でも心の片隅では申し訳なく思っている。
このころ感じたのは、人は一度信じ込んでしまった常識を簡単に捨てられないということ、そして活字による情報提供には限界があるということだ。たしかにこの赤い彗星の表現力不足は否定できない。しかし、本には書かれていない情報、いわば行間を読もうとする者があまりにも少ないことに大きなショックを受けた。
そこで視覚と聴覚に訴える手段として「TMSジャパン・メソッド」を考案したわけだが、この方法にも問題があった。
当初の「TMSジャパン・メソッド」は、フェーズ1とフェーズ2の2日間にわる治療プログラムだった。ところが、フェーズ2で「医学の誤謬」と題してメディア・リテラシーに触れてはいたが、2日間の内容をすべて記憶するのは事実上不可能である。おまけにどちらかのフェーズを受講しただけで、すべてわかったような気になる輩も出てきてしまった。いくら赤い彗星のプレゼンテーションが稚拙だったとはいえ、これでは治療プログラムそのものの真価が問われてしまう。
そこで「TMSジャパン・メソッド」を1日にまとめ、2日分の内容をDVDかビデオで提供することにした。こうすれば自宅で何度も復習できるからだ。しかしそこまでしても、メディア・リテラシーの重要性や、この赤い彗星はいったい何を考えているのかなど、まだまだ十分に理解されていないことが判明した。事実、受講後にクワッカリーの餌食になって数百万円も支払った者がいるのだ。
「をいをい、ちゃんと復習してるのか? なんなら『攻殻機動隊』や『マトリックス』で使ってたあのプラグを差し込んでやろうか?」と、他人に責任を押し付けるわけにもいかない。そもそもこの赤い彗星の表現力に問題があるのだ。でも、ちょっとした壁にぶち当たってしまった心境ではある。
そこに追い討ちをかけたのが「補完・代替医療総覧」の連載だった。まだ発刊されていないが、次号からはクワッカリー(インチキ治療、イカサマ師、健康詐欺)がテーマとなる。このクワッカリーがよく使う巧妙な手口を調べれば調べるほど、メディア・リテラシーの壁が巨大に思えてきた。いくら赤い彗星が新型モビルスーツに搭乗し、すべてのファンネルを放出たとしても、そう簡単には破壊できないことを悟った。
メディア・リテラシーは、今もなお大きな壁となってこの赤い彗星の前に立ちはだかっている。これはベルリンの壁よりはるかに頑丈だ。そこでメディア・リテラシーについて参考になるいくつかの本を紹介したい。ひとりでもふたりでもいい、この忌々しい壁を打ち破ってほしい。
まず、菅谷明子『メディア・リテラシー』(岩波書店)だ。いうまでもなく、われわれは人生の大半をメディアとともに過ごしている。そこで必要になるのはメディア・リテラシー教育、すなわち情報の中に潜むさまざまなバイアスを見破る力を養うことである。近年、ようやく日本でも関心が高まりつつあるようだが、メディア・リテラシー教育の先進国から学ぶことは実に多い。この本は、イギリス、カナダ、アメリカの3ヶ国に焦点を絞り、各国の教育現場やメディア業界の取り組み、メディアを監視する市民団体の活動などを現場から報告している。
次は、森達也『世界を信じるためのメソッド―僕らの時代のメディア・リテラシー』(理論社)だ。メディアと情報の洪水の中で、われわれは何を信じ、何を疑い、どのように考えて行けばいいのかを、きわめて単純明快に解説している。日本でメディア・リテラシー教育を始めるとなれば、この本は素晴らしい教科書となるだろう。なにしろ小学生でも解るように書かれているのだ。これを読んでもメディア・リテラシーを理解できなければ、オツムの程度はサル以下といわれても仕方がない。
そして、当サイトでもリンクさせていただいているおない内科クリニック副院長の、小内亨『お医者さんも戸惑う健康情報を見抜く』(日経BP社)も必見だ。日経メディカルオンラインで連載していたコラムをまとめたもので、テレビやラジオ、インターネットを通して提供される玉石混淆の健康情報の中から、信用できる情報を見抜くコツを伝授してくれる。クワッカリーを見分けるにもよい参考書である。
以上の3冊を、TMSジャパン⇒「お勧めの本」⇒「現代医学」に追加したので、是非ともメディア・リテラシーを育んでほしい。きっと世界観が変わると思う。
ちなみに、今は在庫切れになっているが、小内亨『危ない健康食品&民間療法の見分け方―それでもあなたは信じますか!』(フットワーク出版)も紹介しておこう。
従来の古典的な常識や、メディア情報を信じて疑わない人々による情け容赦のない誹謗中傷で、とても多くの人々が傷ついたし、この赤い彗星もほとほと疲れ果ててしまった。
日本最大の腰痛掲示板「腰痛の広場」が閉鎖に至ったのも、実はこの赤い彗星に責任の一端があるのではないかと考え、管理人の見城昌平さんに直接会って謝ったりもした。心の広い見城さんは「まったくの個人的理由です」とおっしゃってくれたが、今でも心の片隅では申し訳なく思っている。
このころ感じたのは、人は一度信じ込んでしまった常識を簡単に捨てられないということ、そして活字による情報提供には限界があるということだ。たしかにこの赤い彗星の表現力不足は否定できない。しかし、本には書かれていない情報、いわば行間を読もうとする者があまりにも少ないことに大きなショックを受けた。
そこで視覚と聴覚に訴える手段として「TMSジャパン・メソッド」を考案したわけだが、この方法にも問題があった。
当初の「TMSジャパン・メソッド」は、フェーズ1とフェーズ2の2日間にわる治療プログラムだった。ところが、フェーズ2で「医学の誤謬」と題してメディア・リテラシーに触れてはいたが、2日間の内容をすべて記憶するのは事実上不可能である。おまけにどちらかのフェーズを受講しただけで、すべてわかったような気になる輩も出てきてしまった。いくら赤い彗星のプレゼンテーションが稚拙だったとはいえ、これでは治療プログラムそのものの真価が問われてしまう。
そこで「TMSジャパン・メソッド」を1日にまとめ、2日分の内容をDVDかビデオで提供することにした。こうすれば自宅で何度も復習できるからだ。しかしそこまでしても、メディア・リテラシーの重要性や、この赤い彗星はいったい何を考えているのかなど、まだまだ十分に理解されていないことが判明した。事実、受講後にクワッカリーの餌食になって数百万円も支払った者がいるのだ。
「をいをい、ちゃんと復習してるのか? なんなら『攻殻機動隊』や『マトリックス』で使ってたあのプラグを差し込んでやろうか?」と、他人に責任を押し付けるわけにもいかない。そもそもこの赤い彗星の表現力に問題があるのだ。でも、ちょっとした壁にぶち当たってしまった心境ではある。
そこに追い討ちをかけたのが「補完・代替医療総覧」の連載だった。まだ発刊されていないが、次号からはクワッカリー(インチキ治療、イカサマ師、健康詐欺)がテーマとなる。このクワッカリーがよく使う巧妙な手口を調べれば調べるほど、メディア・リテラシーの壁が巨大に思えてきた。いくら赤い彗星が新型モビルスーツに搭乗し、すべてのファンネルを放出たとしても、そう簡単には破壊できないことを悟った。
メディア・リテラシーは、今もなお大きな壁となってこの赤い彗星の前に立ちはだかっている。これはベルリンの壁よりはるかに頑丈だ。そこでメディア・リテラシーについて参考になるいくつかの本を紹介したい。ひとりでもふたりでもいい、この忌々しい壁を打ち破ってほしい。
まず、菅谷明子『メディア・リテラシー』(岩波書店)だ。いうまでもなく、われわれは人生の大半をメディアとともに過ごしている。そこで必要になるのはメディア・リテラシー教育、すなわち情報の中に潜むさまざまなバイアスを見破る力を養うことである。近年、ようやく日本でも関心が高まりつつあるようだが、メディア・リテラシー教育の先進国から学ぶことは実に多い。この本は、イギリス、カナダ、アメリカの3ヶ国に焦点を絞り、各国の教育現場やメディア業界の取り組み、メディアを監視する市民団体の活動などを現場から報告している。
次は、森達也『世界を信じるためのメソッド―僕らの時代のメディア・リテラシー』(理論社)だ。メディアと情報の洪水の中で、われわれは何を信じ、何を疑い、どのように考えて行けばいいのかを、きわめて単純明快に解説している。日本でメディア・リテラシー教育を始めるとなれば、この本は素晴らしい教科書となるだろう。なにしろ小学生でも解るように書かれているのだ。これを読んでもメディア・リテラシーを理解できなければ、オツムの程度はサル以下といわれても仕方がない。
そして、当サイトでもリンクさせていただいているおない内科クリニック副院長の、小内亨『お医者さんも戸惑う健康情報を見抜く』(日経BP社)も必見だ。日経メディカルオンラインで連載していたコラムをまとめたもので、テレビやラジオ、インターネットを通して提供される玉石混淆の健康情報の中から、信用できる情報を見抜くコツを伝授してくれる。クワッカリーを見分けるにもよい参考書である。
以上の3冊を、TMSジャパン⇒「お勧めの本」⇒「現代医学」に追加したので、是非ともメディア・リテラシーを育んでほしい。きっと世界観が変わると思う。
ちなみに、今は在庫切れになっているが、小内亨『危ない健康食品&民間療法の見分け方―それでもあなたは信じますか!』(フットワーク出版)も紹介しておこう。
2007年02月06日
テレビ収録騒動記(8)
いよいよ今回が最終回である。
*********************************
頭痛の患者さんは嶋大輔さんです。例によって中央の丸椅子に座り、10代の頃から片頭痛に悩まされていることを告げ、最近の生活状況を自分で撮影したVTRが流れます。
VTRが終わると、頭痛専門医が早口で5つか6つほど質問をしました。ひとつひとつに答え終わるとその先生は「はい、わかりました」といいます。その他の名医の先生たちからの質問はなかったと記憶しています。そして処方箋が提示されました。
頭痛専門医を含めて3枚のフリップが出て、まずその先生の説明が始まりました。
「嶋さんの頭痛は、国際頭痛学会の診断基準では“前兆のない片頭痛”に分類されます」
(おお、ようやくエビデンスに基づく話が出てきたぞ。これは勉強になりそうだ。こういう話を待ってたんだよ。長い時間待った甲斐があるってもんだ)
「このまま放置すればそのうち脳梗塞で死にますね。最近の研究では、片頭痛と脳梗塞との間には因果関係があるというエビデンスがあるんです」
(ちょっとちょっと、それはマズイんじゃないの? いきなりそんなことを言われたら、患者さんがビックリするじゃない。それにエビデンスという専門用語は禁句のはずでは?)
それからはもうこの先生の独壇場です。2人の先生が出した処方箋を、エビデンスという武器を使ってコテンパンに潰しにかかりました。攻撃を受けている先生たちもれっきとした医師です。当然ながら反撃を試みますが、エビデンスのない持論をしどろもどろに展開するばかりです。これでは相手の思うつぼで、まったく勝ち目がありません。
品川祐さんが割って入って笑いで収めようとしますが(直前のテーマでは品川さんのこの作戦が見事に成功しました)、頭痛専門医の攻撃はさらに激しさを増して行きます。これは明らかにエビデンスという名を借りた暴力です。エビデンスで追いつめるだけ追いつめ、逃げ場をなくした上で息の根を止めようとしています。
担当ディレクターにあれほど「エビデンスで相手を追いつめてはいけない。そんな権利は誰にもない」と言ってきたことが、あろうことか目の前で現実に起きてしまいました。それも情け容赦のない一方的なドクターハラスメントです。出演者はもとよりギャラリーにも緊張が走り、スタジオ内の全員が固唾を呑んでこの修羅場を見つめています。やがて2人の犠牲者は黙り込んでしまいました。
あまりにもむごい仕打ちにだんだん腹が立ってきました。ギャラリー席から降りていって無益な争いを終わらせようとも考えましたが、もし名札をつけていない僕が出て行ったとしたら、不審人物の乱入ということで大混乱になってしまいます。「もうその辺でやめてくれ」と祈るしかありませんでした。
繰り返しになるかもしれませんけど、出演しているすべての先生方には、プライドもあれば面子もあります。家族だっているんです。そして何よりも重要なことは、その先生を信頼している患者さんが大勢いるという事実です。それを公衆の面前でプライドも面子もズタズタに傷つけ、息の根を止めるような行為が許されるわけがありません。どんな理由があるにせよ、そんな暴力を振るう権利は誰にもないはずです。生意気なことを言うようで恐縮ですが、医師である前に、人の痛みがわかる人間であるべきではないでしょうか。
そのうち自分の力をさらに誇示したくなったのか、その頭痛専門医は「私は1日200人の患者を診てるんです。これまで2万人の患者を治療してきました。年間数十回も全国で講演してるんです」と、勝ち誇ったかのように自慢話を始めました。こういう類の経験談はエビデンスの対極にあるものであり、エビデンスを口にする人間が言ってはならない台詞です。でも、この勝利宣言のような自慢話で気が済んだらしく、ようやく静かになってくれました。
こうしてすったもんだの末に最後の収録が終わったわけですが、スタジオを出る直前に「ちょっとやりすぎたかなぁ」という頭痛専門医のにやけた声が耳に入りました。それを聞いた僕は「せいぜい夜道には気をつけるがいいさ」と心の中で呟いていました。
この後、どうやって控え室に戻ったのかまるで覚えていません。気がつくと、同じ部屋の先生方はみなさんお帰りになっていました。そのうち、部屋の外がずいぶん騒がしくなってきました。ドアを開けて部屋の外を見てみると、廊下をふさぐほどの黒山の人だかりができていて、その中心で誰かが怒鳴り散らしています。大勢のスタッフがその騒ぎを鎮めようと必死になっているようでしたが、その怒鳴り声は一向にやむ気配がありません。訴えるとか訴えないとかいう声も聞こえ、さらにエスカレートしていくようです。
僕はそっとドアを閉め、独りになった控え室の中で、目の前で起きた血も涙もない暴力行為を思い返していました。やがてスタッフの一人がホテルへ送るために迎えに来てくれました。そのスタッフの誘導で部屋の外へ出ると、まだ大きな怒鳴り声が廊下中に響き渡っています。
いつになったら終わるのだろうと思いながらエレベーターに乗り込むと、途中で嶋大輔さんとマネージャーが乗ってきました。小さな声で「お疲れ様でした」と言ってみましたけど反応はなく、全員が無言のままうつむいています。
スタッフの方と一緒にタクシーに乗った僕は、新宿のホテルに到着するまで「あれは暴力だ。あんなことを許してはいけない。健康情報番組にはサイエンスとアートに精通したスーパーバイザーが必要だ・・・」と独り言を呟いていました。
本当に長い1日でした。この日はとても大勢の方々が傷つきました。見たくないものを見せられました。聞きたくないことも聞かされました。もう二度とバラエティ番組には出ないと心に誓いました。
なお、オンエアは11月11日(土)の午後1時半から3時の予定ですが、事後の収拾に手間取っているのか、来るはずの連絡がまだ来ていません。でも、日本テレビのサイトには掲載されているので、おそらくオンエアされる方向で動いているのでしょう。
実は、このサイトを見て番組の内容を初めて知りました。「これが最善の対処法だ!」と白熱のトークバトルを展開する番組だったんですね。テーマが「インフォームドコンセント」だったなんて、ビックリして腰が抜けそうです。
下の方に3枚の写真がありますけど、左の写真は早見優さんが腰痛について相談している場面で、背後から誰かに襲われているのが僕です。そして中央の写真で何かを話している医師が今回の暴行犯人です。参考までに、日本テレビのコンプライアンス憲章を挙げておきます。
オンエアをご覧になってこの憲章を守っているかどうかを確認してください。そして何か感じるものがあったら、サイトの上方右端に「ご意見ください」というボタンがありますから、ビシッと意見してやってください。
さて、テレビ収録顛末記は今回をもって終了となります。ここまで読んでくださってありがとうございました。もしかしたら、僕の独断と偏見に満ちたレポートに、不快感を抱いた方もおられるかもしれません。そういう方々には心よりお詫び申し上げます。しかし、どうか広いお心でお許しくださいますよう、伏してお願い申し上げます。
*********************************
なんとも身勝手な終わり方になってしまって誠に申し訳ない。
ちなみに、関西テレビの放送基準には「医療や薬品の知識および健康情報に関しては、いたずらに不安・焦燥・恐怖・楽観などを与えないように注意する」とあり、フジテレビの番組基準には「適確な情報と健全な娯楽の提供により、誰もが安全で心身ともに豊かな生活がおくれる社会の実現につとめる」と明記されている。
しかし、あちらの言い分はこうなのだ。
さて、ここまでお読みになって色々感じたこともあると思うが、このシリーズの冒頭で述べたように、テレビというメディアを一方的に批判するつもりは毛頭ない。たしかに情報の発信者側にはさまざまな問題があるのは事実である。しかし、一方の受信者側にはまったく問題がないと断言できるだろうか。
テレビに限らず、新聞、ラジオ、雑誌、書籍、広告、さらにはホームページやブログも立派な情報発信源である。これらのメディアが発信する情報には、多種多様なバイアス(偏見や先入観による歪み)がかかっている事実を、はたしてどれだけの人が気づいているだろう。TMSジャパンのホームページ、このブログ、サーノの著書、赤い彗星の拙著もけっして例外ではない。
今回の「発掘!あるある大事典」事件を教訓として生かすも殺すも、情報の中に潜むありとあらゆるバイアスを、われわれが見抜けるかどうかにかかっているのだ。「テレビ収録騒動記」を公開したのも、今回のシリーズのカテゴリーが「医療システム」なのも、実はメディア・リテラシーについて考えたかったからである。
前フリが長くてゴメンくさい。
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頭痛の患者さんは嶋大輔さんです。例によって中央の丸椅子に座り、10代の頃から片頭痛に悩まされていることを告げ、最近の生活状況を自分で撮影したVTRが流れます。
VTRが終わると、頭痛専門医が早口で5つか6つほど質問をしました。ひとつひとつに答え終わるとその先生は「はい、わかりました」といいます。その他の名医の先生たちからの質問はなかったと記憶しています。そして処方箋が提示されました。
頭痛専門医を含めて3枚のフリップが出て、まずその先生の説明が始まりました。
「嶋さんの頭痛は、国際頭痛学会の診断基準では“前兆のない片頭痛”に分類されます」
(おお、ようやくエビデンスに基づく話が出てきたぞ。これは勉強になりそうだ。こういう話を待ってたんだよ。長い時間待った甲斐があるってもんだ)
「このまま放置すればそのうち脳梗塞で死にますね。最近の研究では、片頭痛と脳梗塞との間には因果関係があるというエビデンスがあるんです」
(ちょっとちょっと、それはマズイんじゃないの? いきなりそんなことを言われたら、患者さんがビックリするじゃない。それにエビデンスという専門用語は禁句のはずでは?)
それからはもうこの先生の独壇場です。2人の先生が出した処方箋を、エビデンスという武器を使ってコテンパンに潰しにかかりました。攻撃を受けている先生たちもれっきとした医師です。当然ながら反撃を試みますが、エビデンスのない持論をしどろもどろに展開するばかりです。これでは相手の思うつぼで、まったく勝ち目がありません。
品川祐さんが割って入って笑いで収めようとしますが(直前のテーマでは品川さんのこの作戦が見事に成功しました)、頭痛専門医の攻撃はさらに激しさを増して行きます。これは明らかにエビデンスという名を借りた暴力です。エビデンスで追いつめるだけ追いつめ、逃げ場をなくした上で息の根を止めようとしています。
担当ディレクターにあれほど「エビデンスで相手を追いつめてはいけない。そんな権利は誰にもない」と言ってきたことが、あろうことか目の前で現実に起きてしまいました。それも情け容赦のない一方的なドクターハラスメントです。出演者はもとよりギャラリーにも緊張が走り、スタジオ内の全員が固唾を呑んでこの修羅場を見つめています。やがて2人の犠牲者は黙り込んでしまいました。
あまりにもむごい仕打ちにだんだん腹が立ってきました。ギャラリー席から降りていって無益な争いを終わらせようとも考えましたが、もし名札をつけていない僕が出て行ったとしたら、不審人物の乱入ということで大混乱になってしまいます。「もうその辺でやめてくれ」と祈るしかありませんでした。
繰り返しになるかもしれませんけど、出演しているすべての先生方には、プライドもあれば面子もあります。家族だっているんです。そして何よりも重要なことは、その先生を信頼している患者さんが大勢いるという事実です。それを公衆の面前でプライドも面子もズタズタに傷つけ、息の根を止めるような行為が許されるわけがありません。どんな理由があるにせよ、そんな暴力を振るう権利は誰にもないはずです。生意気なことを言うようで恐縮ですが、医師である前に、人の痛みがわかる人間であるべきではないでしょうか。
そのうち自分の力をさらに誇示したくなったのか、その頭痛専門医は「私は1日200人の患者を診てるんです。これまで2万人の患者を治療してきました。年間数十回も全国で講演してるんです」と、勝ち誇ったかのように自慢話を始めました。こういう類の経験談はエビデンスの対極にあるものであり、エビデンスを口にする人間が言ってはならない台詞です。でも、この勝利宣言のような自慢話で気が済んだらしく、ようやく静かになってくれました。
こうしてすったもんだの末に最後の収録が終わったわけですが、スタジオを出る直前に「ちょっとやりすぎたかなぁ」という頭痛専門医のにやけた声が耳に入りました。それを聞いた僕は「せいぜい夜道には気をつけるがいいさ」と心の中で呟いていました。
この後、どうやって控え室に戻ったのかまるで覚えていません。気がつくと、同じ部屋の先生方はみなさんお帰りになっていました。そのうち、部屋の外がずいぶん騒がしくなってきました。ドアを開けて部屋の外を見てみると、廊下をふさぐほどの黒山の人だかりができていて、その中心で誰かが怒鳴り散らしています。大勢のスタッフがその騒ぎを鎮めようと必死になっているようでしたが、その怒鳴り声は一向にやむ気配がありません。訴えるとか訴えないとかいう声も聞こえ、さらにエスカレートしていくようです。
僕はそっとドアを閉め、独りになった控え室の中で、目の前で起きた血も涙もない暴力行為を思い返していました。やがてスタッフの一人がホテルへ送るために迎えに来てくれました。そのスタッフの誘導で部屋の外へ出ると、まだ大きな怒鳴り声が廊下中に響き渡っています。
いつになったら終わるのだろうと思いながらエレベーターに乗り込むと、途中で嶋大輔さんとマネージャーが乗ってきました。小さな声で「お疲れ様でした」と言ってみましたけど反応はなく、全員が無言のままうつむいています。
スタッフの方と一緒にタクシーに乗った僕は、新宿のホテルに到着するまで「あれは暴力だ。あんなことを許してはいけない。健康情報番組にはサイエンスとアートに精通したスーパーバイザーが必要だ・・・」と独り言を呟いていました。
本当に長い1日でした。この日はとても大勢の方々が傷つきました。見たくないものを見せられました。聞きたくないことも聞かされました。もう二度とバラエティ番組には出ないと心に誓いました。
なお、オンエアは11月11日(土)の午後1時半から3時の予定ですが、事後の収拾に手間取っているのか、来るはずの連絡がまだ来ていません。でも、日本テレビのサイトには掲載されているので、おそらくオンエアされる方向で動いているのでしょう。
実は、このサイトを見て番組の内容を初めて知りました。「これが最善の対処法だ!」と白熱のトークバトルを展開する番組だったんですね。テーマが「インフォームドコンセント」だったなんて、ビックリして腰が抜けそうです。
下の方に3枚の写真がありますけど、左の写真は早見優さんが腰痛について相談している場面で、背後から誰かに襲われているのが僕です。そして中央の写真で何かを話している医師が今回の暴行犯人です。参考までに、日本テレビのコンプライアンス憲章を挙げておきます。
オンエアをご覧になってこの憲章を守っているかどうかを確認してください。そして何か感じるものがあったら、サイトの上方右端に「ご意見ください」というボタンがありますから、ビシッと意見してやってください。
さて、テレビ収録顛末記は今回をもって終了となります。ここまで読んでくださってありがとうございました。もしかしたら、僕の独断と偏見に満ちたレポートに、不快感を抱いた方もおられるかもしれません。そういう方々には心よりお詫び申し上げます。しかし、どうか広いお心でお許しくださいますよう、伏してお願い申し上げます。
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なんとも身勝手な終わり方になってしまって誠に申し訳ない。
ちなみに、関西テレビの放送基準には「医療や薬品の知識および健康情報に関しては、いたずらに不安・焦燥・恐怖・楽観などを与えないように注意する」とあり、フジテレビの番組基準には「適確な情報と健全な娯楽の提供により、誰もが安全で心身ともに豊かな生活がおくれる社会の実現につとめる」と明記されている。
しかし、あちらの言い分はこうなのだ。
さて、ここまでお読みになって色々感じたこともあると思うが、このシリーズの冒頭で述べたように、テレビというメディアを一方的に批判するつもりは毛頭ない。たしかに情報の発信者側にはさまざまな問題があるのは事実である。しかし、一方の受信者側にはまったく問題がないと断言できるだろうか。
テレビに限らず、新聞、ラジオ、雑誌、書籍、広告、さらにはホームページやブログも立派な情報発信源である。これらのメディアが発信する情報には、多種多様なバイアス(偏見や先入観による歪み)がかかっている事実を、はたしてどれだけの人が気づいているだろう。TMSジャパンのホームページ、このブログ、サーノの著書、赤い彗星の拙著もけっして例外ではない。
今回の「発掘!あるある大事典」事件を教訓として生かすも殺すも、情報の中に潜むありとあらゆるバイアスを、われわれが見抜けるかどうかにかかっているのだ。「テレビ収録騒動記」を公開したのも、今回のシリーズのカテゴリーが「医療システム」なのも、実はメディア・リテラシーについて考えたかったからである。
前フリが長くてゴメンくさい。
2007年02月05日
テレビ収録騒動記(7)
今回からは、本番収録後に起きた出来事である。
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とんだ道化を演じさせられ、肩を落としてスタジオを後にした僕でしたが、控え室に戻るとカイロプラクターの先生がすごい剣幕で怒っています。
「あのAKAは何ですか? 仙腸関節がどうのこうのと、そんなことはオステオパシーやカイロプラクティックが100年前に研究し尽くしたものじゃないですか!」
もっともな意見です。仙腸関節が動くという概念は元々現代医学にはなく、解剖学的にあり得ないというのが現代医学側の見解でした。しかし、カイロプラクティック側の努力と現代医学側の歩み寄りの成果が実り、仙腸関節に可動性はないという見解は死体解剖から得られた所見であって、生きている人間の仙腸関節には関節としての機能が存在するという事実が判明しました。ほんの数十年前のことです。
これを境に現代医学は仙腸関節に注目しはじめ、今度は逆に腰痛の原因は仙腸関節の不安定性にあるという考え方が出現し、その動きを止めるために硬化療法(スクレロサント注射)や仙腸関節固定術という手術が行なわれるようになりました。しかし、いずれもエビデンスがないという理由で診療ガイドラインでは推奨していません。
その一方で、オステオパシーやカイロプラクティックには、仙腸関節に対する治療法が数多く存在し、エビデンスがあるとは言えないまでも、長年にわたって仙腸関節を治療してきたという経緯があるのです。ですから、カイロプラクターの目には、AKAが単なるパクリとしか映らないは当然です。
「まぁ、いいじゃないですか。医学は結局アートなんですから、効果があればどんな治療法でも、それがどんな名称でも関係ありませんよ。世界のほとんどの診療ガイドラインは、ちゃんとカイロプラクティックをオプションとして認めてるんですから、そんな小さなことにこだわらずにデンと構えていてください」
その後、このカイロプラクターにも出番が回ってきて、僕は独りぼっちになりました。他の先生方は最初からスタジオ内でずっと頑張っていらっしゃいます。どっと疲れが出た僕は少し横なりたくなりました。でも横になれるような場所もありません。仕方がないのでまたスタジオ前のホールへ戻ってモニターを眺めていました。
相変わらずアヒルさんたちが騒がしく鳴いています。そのうち、現代医学 vs 代替医療という図式でちょっとした論戦が始まりました。大変失礼ながら、代替医療の先生方は圧倒的に勉強不足です。自分の経験や独自の理論を展開するばかりで、エビデンスのエの字も知らないようです。このメーリングリストを読んでいれば少しは知識が増えるでしょうに、医師に最新の研究成果を示されても理解できないのです。だからいつまでたっても平行線のまま。悲しいことです。「でもあまりいじめないでやってください」と心の中でつぶやいていました。
そんなモニターをボーと眺めていると、ひとりのディレクターが近づいてきて、「もしお帰りになるようでしたら、ホテルまでお送りさせていただきますけど、どうされますか?」と言います。もう得るものがないようなので帰ってもよかったのですが、スタジオ内のスタッフやタレントさんたちがあれだけ頑張っているのです。だから僕もそれを見届けようと思い、「このまま最後まで残ります」と答えました。
タレントさんたちの疲労度は手に取るようにわかりました。名医たちが座る椅子はとても座り心地のいいものなのに、タレントさんたちの椅子は丸椅子に毛の生えたような明らかに座り心地の悪いものでした。休憩のたびに背伸びをしたり、周囲を歩いたり、ストレッチをしたりと、それはそれは痛々しい光景でした。
特に司会の2人には椅子がなく、名倉潤さんは司会者用のテーブルに顔をうずめてぐったりしています。一方のMEGUMIさんは、背筋を伸ばしたまま毅然とした態度で立ち続けています。このど根性には頭が下がる思いです。そして本番が始まると、みなさんのテンションが収録開始時のレベルにまで一気に高まります。このハイテンションを維持できるタレントのみなさんは、本当に立派な仕事をされていました。
そのうちまたひとつのテーマが終わり、ギャラリーの入れ替えが始まりました。ところが、ギャラリーの人数が足りなくなってきたようで、「すみませーん! お手すきの方はスタジオ内に入っていただけないでしょうかー!」という声が響き渡ります。それもそのはず、ギャラリーといえども腹は減るでしょうし、終電の時間も考えなければなりません。そこで僕も名札をはずし、タレントさんのマネージャーらしき人たちと一緒にスタジオ内のギャラリー席に座りました。
そしてディレクター陣のカウントダウンと共に収録が再開され、結局ふたつのテーマをギャラリー席で観ることになったわけですが、最後のテーマである「頭痛」を収録している時にその事件は勃発しました。
*********************************
「発掘!あるある大事典」が打ち切られるのを知ってすぐに思ったのは、レギュラー出演していたタレントさんたちの気持ちだ。というのも、今回の事件で直接的な被害を受けたのは、視聴者というよりも実はタレントさんだからである。
昨年の始めに流出した1時間番組1本あたりのギャラ一覧表を見ると、司会の堺正章さんが350万円(「発掘!あるある大事典」の場合は500万円)、レギュラーの志村けんさんは400万円、同じく柴田理恵さんは60万円である。この番組は毎週放送されていたわけだから、これらの数字の4倍のギャラが毎月所属事務所に入っていた計算になる。それが突然断ち切られたのだ。タレントさんにとっても所属事務所にとっても、かなりの痛手になっただろうことは容易に想像できる。
ちなみに、テレビ業界には一度上がったギャラは下がらないという慣例があるらしい。ギャラの高い大物タレントといえども、視聴率に反映されなければ使われなくなる仕組みだとか。その一方で、新人タレントの場合は露出度を優先させたいがゆえに、ギャラの上昇は慎重にならざるを得ないのである。
と、他人の懐の心配をしている場合ではないか。失敬、失敬。
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とんだ道化を演じさせられ、肩を落としてスタジオを後にした僕でしたが、控え室に戻るとカイロプラクターの先生がすごい剣幕で怒っています。
「あのAKAは何ですか? 仙腸関節がどうのこうのと、そんなことはオステオパシーやカイロプラクティックが100年前に研究し尽くしたものじゃないですか!」
もっともな意見です。仙腸関節が動くという概念は元々現代医学にはなく、解剖学的にあり得ないというのが現代医学側の見解でした。しかし、カイロプラクティック側の努力と現代医学側の歩み寄りの成果が実り、仙腸関節に可動性はないという見解は死体解剖から得られた所見であって、生きている人間の仙腸関節には関節としての機能が存在するという事実が判明しました。ほんの数十年前のことです。
これを境に現代医学は仙腸関節に注目しはじめ、今度は逆に腰痛の原因は仙腸関節の不安定性にあるという考え方が出現し、その動きを止めるために硬化療法(スクレロサント注射)や仙腸関節固定術という手術が行なわれるようになりました。しかし、いずれもエビデンスがないという理由で診療ガイドラインでは推奨していません。
その一方で、オステオパシーやカイロプラクティックには、仙腸関節に対する治療法が数多く存在し、エビデンスがあるとは言えないまでも、長年にわたって仙腸関節を治療してきたという経緯があるのです。ですから、カイロプラクターの目には、AKAが単なるパクリとしか映らないは当然です。
「まぁ、いいじゃないですか。医学は結局アートなんですから、効果があればどんな治療法でも、それがどんな名称でも関係ありませんよ。世界のほとんどの診療ガイドラインは、ちゃんとカイロプラクティックをオプションとして認めてるんですから、そんな小さなことにこだわらずにデンと構えていてください」
その後、このカイロプラクターにも出番が回ってきて、僕は独りぼっちになりました。他の先生方は最初からスタジオ内でずっと頑張っていらっしゃいます。どっと疲れが出た僕は少し横なりたくなりました。でも横になれるような場所もありません。仕方がないのでまたスタジオ前のホールへ戻ってモニターを眺めていました。
相変わらずアヒルさんたちが騒がしく鳴いています。そのうち、現代医学 vs 代替医療という図式でちょっとした論戦が始まりました。大変失礼ながら、代替医療の先生方は圧倒的に勉強不足です。自分の経験や独自の理論を展開するばかりで、エビデンスのエの字も知らないようです。このメーリングリストを読んでいれば少しは知識が増えるでしょうに、医師に最新の研究成果を示されても理解できないのです。だからいつまでたっても平行線のまま。悲しいことです。「でもあまりいじめないでやってください」と心の中でつぶやいていました。
そんなモニターをボーと眺めていると、ひとりのディレクターが近づいてきて、「もしお帰りになるようでしたら、ホテルまでお送りさせていただきますけど、どうされますか?」と言います。もう得るものがないようなので帰ってもよかったのですが、スタジオ内のスタッフやタレントさんたちがあれだけ頑張っているのです。だから僕もそれを見届けようと思い、「このまま最後まで残ります」と答えました。
タレントさんたちの疲労度は手に取るようにわかりました。名医たちが座る椅子はとても座り心地のいいものなのに、タレントさんたちの椅子は丸椅子に毛の生えたような明らかに座り心地の悪いものでした。休憩のたびに背伸びをしたり、周囲を歩いたり、ストレッチをしたりと、それはそれは痛々しい光景でした。
特に司会の2人には椅子がなく、名倉潤さんは司会者用のテーブルに顔をうずめてぐったりしています。一方のMEGUMIさんは、背筋を伸ばしたまま毅然とした態度で立ち続けています。このど根性には頭が下がる思いです。そして本番が始まると、みなさんのテンションが収録開始時のレベルにまで一気に高まります。このハイテンションを維持できるタレントのみなさんは、本当に立派な仕事をされていました。
そのうちまたひとつのテーマが終わり、ギャラリーの入れ替えが始まりました。ところが、ギャラリーの人数が足りなくなってきたようで、「すみませーん! お手すきの方はスタジオ内に入っていただけないでしょうかー!」という声が響き渡ります。それもそのはず、ギャラリーといえども腹は減るでしょうし、終電の時間も考えなければなりません。そこで僕も名札をはずし、タレントさんのマネージャーらしき人たちと一緒にスタジオ内のギャラリー席に座りました。
そしてディレクター陣のカウントダウンと共に収録が再開され、結局ふたつのテーマをギャラリー席で観ることになったわけですが、最後のテーマである「頭痛」を収録している時にその事件は勃発しました。
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「発掘!あるある大事典」が打ち切られるのを知ってすぐに思ったのは、レギュラー出演していたタレントさんたちの気持ちだ。というのも、今回の事件で直接的な被害を受けたのは、視聴者というよりも実はタレントさんだからである。
昨年の始めに流出した1時間番組1本あたりのギャラ一覧表を見ると、司会の堺正章さんが350万円(「発掘!あるある大事典」の場合は500万円)、レギュラーの志村けんさんは400万円、同じく柴田理恵さんは60万円である。この番組は毎週放送されていたわけだから、これらの数字の4倍のギャラが毎月所属事務所に入っていた計算になる。それが突然断ち切られたのだ。タレントさんにとっても所属事務所にとっても、かなりの痛手になっただろうことは容易に想像できる。
ちなみに、テレビ業界には一度上がったギャラは下がらないという慣例があるらしい。ギャラの高い大物タレントといえども、視聴率に反映されなければ使われなくなる仕組みだとか。その一方で、新人タレントの場合は露出度を優先させたいがゆえに、ギャラの上昇は慎重にならざるを得ないのである。
と、他人の懐の心配をしている場合ではないか。失敬、失敬。
2007年02月04日
テレビ収録騒動記(6)
いよいよ本番の収録が始まったものの、次々に起こる予想外の展開に少々パニックになってしまった。
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AKAのS先生とレーザー手術のM先生と共にスタジオ内に入ったわけですが、新たに3人が加わるということは、3人が抜けるということになります。誰が抜けたかは確認できませんでしたけど、僕は半円形のテーブルの真ん中あたり、白衣組と背広組の間に座らされたような気がします。イエローフラッグを強引に改ざんした「腰痛になりやすい人」と書かれたフリップもテーブル上に用意されていました。
やがてディレクター陣のカウントダウンが始まり、いよいよ収録の再開です。患者の早見優さんが出てきて中央の丸椅子に座り、20代から腰痛に悩まされていたこと、椎間板ヘルニアと診断されたことがあるなど、これまでの経緯を説明しました。でも現在は、下肢症状はなくて腰痛だけのようです。
次に、日常生活のVTRが映し出されました。この映像の中に腰痛の原因が隠されていないか、という趣旨だったようですけど、仕事と家庭を両立しなければならない芸能人のストレスフルな日常を垣間見た、という印象でした。でも、もっともっとストレスフルな生活を強いられている専業主婦も大勢いるわけですし、ストレスの受け取り方は千差万別ですから、VTRの内容にはあまり興味が持てませんでした。
VTR終了後、色々な意見が出ていたようですけど、特に面白い話もないままAKAのS先生のデモンストレーションが始まりました。そしてM先生がレーザー手術について少しお話されていましたが、やはり僕の好奇心を刺激するようなものではありませんでした。
そもそも、医学知識のない人を相手に自分の治療法の正当性を主張すること自体が、医療倫理にそむく行為であり、ヒポクラテスはもとより、世界医師会も日本医師会も禁じているのです。
ですからこういう話に参加する気にはとてもなれません。僕の立ち位置は、何か特定の治療法を推薦することではなく、あくまでも国際レベルの新たな腰痛概念を伝えることです。そのうちデパスが効いてきたのか、何とも言いようのない無力感に包まれていきました。
そしていよいよ処方箋を提示する時間が来ました。かねてからの打ち合わせどおり、「意識改革」「人生を楽しむ」の2点をフリップに書きました。とはいえ、恥ずかしながら「意識改革」の「識」という文字が思い浮かびません。「革」という文字もどこか怪しげです。若年性認知症が進行しているのか、パソコンばかり使っているせいなのか知りませんが、僕のオツムはかなり壊れてきているようです。
それでもなんとか処方箋を書き上げ、周囲を見渡すと、僕を含めて4枚のフリップが出ています。「あれ? 忍者でも潜んでいたのか?」と思って名札を見ると、「整形外科医」とあります。なるほど、最初のテーマの時から参加していた整形外科医がいたというわけです。何も知らされていませんでしたが、整形外科医なら処方箋を出さないわけにはいきません。
次にひとりひとり、その処方箋について説明していきます。記憶が定かではないのですが、突然現れた整形外科医は「AKAもレーザー手術もいいでしょうけど、いずれも保険診療が認められていないので、費用対効果を考えるとやはり一般の整形外科医に診てもらうのが一番だと思います」というような説明をしたような気がします。
ごもっともな意見です。でもそれなら早見優さんはとうの昔に完治しているはずで、ここに座っている理由がありません。
S先生は、菊地教授の言葉を引用して腰痛疾患の85%は原因不明であること、AKAが整形外科医や理学療法士の間でどれだけ普及しているかを説明したと思います。
M先生は、レーザー手術の安全性とこれまでの実績をお話されていたようですが、司会の名倉潤さんがその費用について質問したところ「30万円から100万円です」と答えました。35万円から50万円程度だと思っていた僕はビックリ仰天です。スタジオ内も騒然となりました。
どうしてそんなに幅があるのかというと、年々新しいレーザー手術用の医療機器が開発されるからだということです。アメリカでは新しいインストゥルメンテーション(金属による固定術)システムが開発されると、ウォール街が大きく揺れるとは聞いていました。ところが日本でも、医療機器メーカーがあの手この手を使って患者さんから利益を上げている事実が明らかとなったわけです。これが医療産業の現実というものなのでしょう。商売なのだから当然といえば当然です。
そして僕の番が回ってきました。腰痛診療ガイドラインの意味や腰痛概念が劇的に変化したことを説明しようとしましたが、「専門用語は使わずに。小学生にもわかるように」という言葉が頭に浮かび、なかなかうまく説明できません。でもイエローフラッグのフリップを示せば何とかなるはずです。そのきっかけを作るために、意識改革だけで腰痛患者が減ったというオーストラリアのメディアキャンペーンの例を話し出そうとした矢先、チャイムが鳴って時間切れです。
(エーッ!! うそでしょう!? 打ち合わせとぜんぜん違うじゃない。日帰りで東京を往復したのはただの暇つぶし? 散々話し合った末に作ったフリップはどうなるの? まだ何も説明してないのに早見優さんに処方箋を選択させるわけ?)
あまりにも突然の出来事だったので、頭の中が真っ白になってしまいました。でもEディレクターがあれだけ頑張ってくれたんですから、もう少し話をさせてもらおうと粘ってみましたが、まったく取り合ってくれません。
結局、早見優さんが選んだ処方箋は、AKAでもレーザー手術でもなく、ごく一般的な意見を述べた整形外科医の処方箋でした。思わず噴き出してしまいました。ここに座っている自分がとても滑稽に思えたのです。
こうしてほとんど鳴き声をあげず、「腰痛ジャーナリスト」を名乗る背広を着た怪しげなアヒルの話は聞いてもらえませんでした。こんなことになるのなら、サングラスでもかけて扇子をパタパタしていた方がよほど面白い画になったことでしょう。今にも爆発しそうな激しい怒りを抑えつつ、僕は控え室に戻りました。
後になって振り返ってみると、あのテーブルには代替医療の専門家もいたはずですし、収録時間も1番目のテーマから比べればずいぶん短縮されていました。ということは、最初から座っていた名医の方たちにも言い分はあったけれども、あえて処方箋を提示しなかった。すなわち、処方箋を出さないでほしいという指示があったと考えられます。
この事実は後ほど確認できました。やはり仕込みはあったのです。それを演出と呼ぶかヤラセと呼ぶかは、立場によって違うということなのでしょう。要するにバラエティ番組はどこまで行ってもバラエティ番組であり、真実を伝える意図はほとんどないということがよくわかりました。
とまぁ、こんな感じで本番の収録が終わり、茫然自失のまま控え室に戻ったわけですが、戻ったら戻ったでカイロプラクターの先生がすごい剣幕で怒っています。
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早見優さんが選んだ整形外科医は、最近ずいぶんお世話になっている、某有名私立医大のA助教授の後輩だったことが後に判明した。
それにしても世の中、何が起こるか本当にわからないものである。というよりも、テレビ業界を知らなさ過ぎるというべきか。
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AKAのS先生とレーザー手術のM先生と共にスタジオ内に入ったわけですが、新たに3人が加わるということは、3人が抜けるということになります。誰が抜けたかは確認できませんでしたけど、僕は半円形のテーブルの真ん中あたり、白衣組と背広組の間に座らされたような気がします。イエローフラッグを強引に改ざんした「腰痛になりやすい人」と書かれたフリップもテーブル上に用意されていました。
やがてディレクター陣のカウントダウンが始まり、いよいよ収録の再開です。患者の早見優さんが出てきて中央の丸椅子に座り、20代から腰痛に悩まされていたこと、椎間板ヘルニアと診断されたことがあるなど、これまでの経緯を説明しました。でも現在は、下肢症状はなくて腰痛だけのようです。
次に、日常生活のVTRが映し出されました。この映像の中に腰痛の原因が隠されていないか、という趣旨だったようですけど、仕事と家庭を両立しなければならない芸能人のストレスフルな日常を垣間見た、という印象でした。でも、もっともっとストレスフルな生活を強いられている専業主婦も大勢いるわけですし、ストレスの受け取り方は千差万別ですから、VTRの内容にはあまり興味が持てませんでした。
VTR終了後、色々な意見が出ていたようですけど、特に面白い話もないままAKAのS先生のデモンストレーションが始まりました。そしてM先生がレーザー手術について少しお話されていましたが、やはり僕の好奇心を刺激するようなものではありませんでした。
そもそも、医学知識のない人を相手に自分の治療法の正当性を主張すること自体が、医療倫理にそむく行為であり、ヒポクラテスはもとより、世界医師会も日本医師会も禁じているのです。
ですからこういう話に参加する気にはとてもなれません。僕の立ち位置は、何か特定の治療法を推薦することではなく、あくまでも国際レベルの新たな腰痛概念を伝えることです。そのうちデパスが効いてきたのか、何とも言いようのない無力感に包まれていきました。
そしていよいよ処方箋を提示する時間が来ました。かねてからの打ち合わせどおり、「意識改革」「人生を楽しむ」の2点をフリップに書きました。とはいえ、恥ずかしながら「意識改革」の「識」という文字が思い浮かびません。「革」という文字もどこか怪しげです。若年性認知症が進行しているのか、パソコンばかり使っているせいなのか知りませんが、僕のオツムはかなり壊れてきているようです。
それでもなんとか処方箋を書き上げ、周囲を見渡すと、僕を含めて4枚のフリップが出ています。「あれ? 忍者でも潜んでいたのか?」と思って名札を見ると、「整形外科医」とあります。なるほど、最初のテーマの時から参加していた整形外科医がいたというわけです。何も知らされていませんでしたが、整形外科医なら処方箋を出さないわけにはいきません。
次にひとりひとり、その処方箋について説明していきます。記憶が定かではないのですが、突然現れた整形外科医は「AKAもレーザー手術もいいでしょうけど、いずれも保険診療が認められていないので、費用対効果を考えるとやはり一般の整形外科医に診てもらうのが一番だと思います」というような説明をしたような気がします。
ごもっともな意見です。でもそれなら早見優さんはとうの昔に完治しているはずで、ここに座っている理由がありません。
S先生は、菊地教授の言葉を引用して腰痛疾患の85%は原因不明であること、AKAが整形外科医や理学療法士の間でどれだけ普及しているかを説明したと思います。
M先生は、レーザー手術の安全性とこれまでの実績をお話されていたようですが、司会の名倉潤さんがその費用について質問したところ「30万円から100万円です」と答えました。35万円から50万円程度だと思っていた僕はビックリ仰天です。スタジオ内も騒然となりました。
どうしてそんなに幅があるのかというと、年々新しいレーザー手術用の医療機器が開発されるからだということです。アメリカでは新しいインストゥルメンテーション(金属による固定術)システムが開発されると、ウォール街が大きく揺れるとは聞いていました。ところが日本でも、医療機器メーカーがあの手この手を使って患者さんから利益を上げている事実が明らかとなったわけです。これが医療産業の現実というものなのでしょう。商売なのだから当然といえば当然です。
そして僕の番が回ってきました。腰痛診療ガイドラインの意味や腰痛概念が劇的に変化したことを説明しようとしましたが、「専門用語は使わずに。小学生にもわかるように」という言葉が頭に浮かび、なかなかうまく説明できません。でもイエローフラッグのフリップを示せば何とかなるはずです。そのきっかけを作るために、意識改革だけで腰痛患者が減ったというオーストラリアのメディアキャンペーンの例を話し出そうとした矢先、チャイムが鳴って時間切れです。
(エーッ!! うそでしょう!? 打ち合わせとぜんぜん違うじゃない。日帰りで東京を往復したのはただの暇つぶし? 散々話し合った末に作ったフリップはどうなるの? まだ何も説明してないのに早見優さんに処方箋を選択させるわけ?)
あまりにも突然の出来事だったので、頭の中が真っ白になってしまいました。でもEディレクターがあれだけ頑張ってくれたんですから、もう少し話をさせてもらおうと粘ってみましたが、まったく取り合ってくれません。
結局、早見優さんが選んだ処方箋は、AKAでもレーザー手術でもなく、ごく一般的な意見を述べた整形外科医の処方箋でした。思わず噴き出してしまいました。ここに座っている自分がとても滑稽に思えたのです。
こうしてほとんど鳴き声をあげず、「腰痛ジャーナリスト」を名乗る背広を着た怪しげなアヒルの話は聞いてもらえませんでした。こんなことになるのなら、サングラスでもかけて扇子をパタパタしていた方がよほど面白い画になったことでしょう。今にも爆発しそうな激しい怒りを抑えつつ、僕は控え室に戻りました。
後になって振り返ってみると、あのテーブルには代替医療の専門家もいたはずですし、収録時間も1番目のテーマから比べればずいぶん短縮されていました。ということは、最初から座っていた名医の方たちにも言い分はあったけれども、あえて処方箋を提示しなかった。すなわち、処方箋を出さないでほしいという指示があったと考えられます。
この事実は後ほど確認できました。やはり仕込みはあったのです。それを演出と呼ぶかヤラセと呼ぶかは、立場によって違うということなのでしょう。要するにバラエティ番組はどこまで行ってもバラエティ番組であり、真実を伝える意図はほとんどないということがよくわかりました。
とまぁ、こんな感じで本番の収録が終わり、茫然自失のまま控え室に戻ったわけですが、戻ったら戻ったでカイロプラクターの先生がすごい剣幕で怒っています。
*********************************
早見優さんが選んだ整形外科医は、最近ずいぶんお世話になっている、某有名私立医大のA助教授の後輩だったことが後に判明した。
それにしても世の中、何が起こるか本当にわからないものである。というよりも、テレビ業界を知らなさ過ぎるというべきか。
2007年02月03日
テレビ収録騒動記(5)
今回からは、収録が行われた麹町の日本テレビKスタジオでの出来事である。
*********************************
ブログに書いたように1番乗りだった僕は、1番早く控え室に案内されました。その後、続々と名医の方々が到着され、偉い先生であればあるほど遅いご到着でした。
日本テレビからのメールには、「出演時は白衣を着用していただきます」とありました。もちろん僕だって白衣くらいは持ってますけど、ケーシー高峰じゃあるまいし、教育プログラムでは着用しません。ですから僕は背広組です。
白衣を着なくなって解ったことですが、白衣には良い意味でも悪い意味でもある種の魔力が宿っています。その魔力はテレビ局内でも鮮明に現れていました。白衣組と背広組とでは、周囲の視線はもちろんのこと、明らかに対応が違っていたのです。面白いものです。
それはさておき、控え室で名医の方々と名刺交換をしていると、男性ディレクターのNさんが現れて別室へ呼び出されました。そこでもやはり議論することを提案されましたが、ブログに書いたようにキッパリとお断りしました。扇子も使うように言われましたけど、これもお断りです。
後でEディレクターにも「空調は効いてますけど、照明は結構暑いので扇子を使いましょうよ」と言われました。小雨が降る寒い北海道から来た僕にとって、東京はあまりにも暑いからパタパタしてただけなのに、おかしなことにこだわるディレクターたちです。スーパーのワゴンセールで買った500円の扇子がよほど気に入ったとみえます。
「番組の流れとしては、健康上の問題を抱えたタレントさんが中央の丸椅子に着席し、それを取り囲むようにして医師の方々に着席してもらいます。そこでタレントさんの日常生活のVTRを見ていただき、処方箋をフリップに書いて提示してもらいます。その処方箋の内容を順番に説明していただき、タレントさんが処方箋を選ぶということになります。ですから長谷川先生は、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の後で処方箋の内容を説明してください。ボケのひとつもお願いしますね」
「と言われても、僕はお笑い芸人じゃないですよ」
簡単な打ち合わせを済ませて控え室へ戻ると、おかしなことに気づきました。同じ控え室の数人の先生たちが「ずいぶん急なことだったので、どういう番組かわからないんですよ。何か聞いてます? 3日前に連絡されても困りますよねぇ」と言い出したのです。
(あれれ? 名刺には立派な肩書きが書いてあるし、著書もたくさんあるとても偉い名医の先生がそんな扱いを受けているのか? なんかおかしいぞ)
「長谷川先生はいつごろ連絡がありました?」
「僕も急だったもので、飛行機のチケットを取るのに苦労しました」
不意討ちを喰らった僕は、咄嗟にウソをついてしまいました。でもよく考えてみると、腰痛がテーマの時は僕を含めて3名が処方箋を提示することになっています。でも、タレントさんを囲むテーブルには10名ほどが着席できるようなセットです。ということは、人数合わせのために呼ばれた名医が仕込まれているということになります。
テレビ局もなかなかやるものです。あれほどむきになって怒っていたEディレクターは、ただ単に純粋だったというわけです。若さっていいなぁと思いました。
午後5時30分に観客をスタジオ内に入れ、5時50分にタレントさんたちがスタジオ入り、6時に収録がスタートしました。テーマは、不眠症⇒腰痛⇒冷え性⇒肩こり⇒頭痛の順だったと記憶しています。出番までは時間がありましたので、暇をもてあましていた僕は、スタジオ入り口前のホールにある大きなモニターで観ていました。
名医の方々があれだけ揃っているのだからさぞかし勉強になるかと思いきや、「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」とアヒルさんたちの大合唱が始まりました(英和辞典で“quack”“quackery”を参照のこと)。エビデンスの有無に関わらず、自分の治療法の自慢話をもっとも大きな声、あるいは聞き心地のいい声で鳴くアヒルさんが選ばれるという仕組みのようです。
この世のものとは思えない信じられない光景です。あの中に放り込まれるのだとしたら、僕にとっては拷問以外の何物でもありません。何分間ぶち切れずに耐えられるだろうかと不安になり、頓服として主治医から手渡されていたデパス1mgを飲み、控え室に逃げ帰りました。いわゆる、世間で言うところのドーピングってやつですか。
それから少しすると、「もうそろそろなのでお願いしまーす」と名前の知らないディレクターらしき人に呼ばれ、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の部屋にも声をかけて、スタジオ横の控え室に連れて行かれました。そこにもモニターがあって、スタジオ内の様子が映っていました。
3人とも黙り込んでモニターを見ていたのですが、「オマエ挨拶してるか? 挨拶だけはタダだぞ」という菊地教授のことばを思い出し、突然立ち上がって名刺を差し出しながら「ご挨拶が遅れました。わたくし、菊地教授にご指導いただいている長谷川と申します。どうぞよろしくお願いします!」と、深々と頭を下げてお利口ちゃんのご挨拶ができました。
あまりにも突然だったのでお2人ともキョトンとしていましたが、「こ、こちらこそよろしくお願いします。今はちょうど名刺を控え室に置いてきたもので・・・」と慌てています。白衣姿だから名刺を持っていないのは当然でしょう。
で、レーザー手術のM先生は無反応でしたが、AKAのS先生は菊地教授の名前に反応を示し、モニターはそっちのけで僕との雑談が始まりました。「世界のKikuchiって国内でも結構知られてるジャン」と思いましたが、考えてみれば菊地教授は昨年の日本腰痛学会で会長を務めていて、AKAのS先生もそのシンポジウムで発表されていたことを思い出しました。
それから、つい先日、某有名私立医大の助教授にご馳走になったことを話すと、その助教授のことを知っているS先生の顔もほころび、益々話が弾んで長々と話し込んでしまいました。ところが気がつくと、調子に乗って取り返しのつかない生意気なことを口走っていました。
「世界の腰痛診療ガイドラインでもマニピュレーションをオプションとして推奨し始めてるんですから、頑張ってAKAのペーパーをたくさん出してくださいよ。何しろ日本から発信する唯一のマニピュレーションなんですからね。日本人はペーパーを突っ返されると二度と戻ってこないけどどうしてなんだ? と菊地教授が問い詰められたことがあるそうですよ。何度突っ返されてもペーパーを出し続けてくださいよ。ペーパーさえ増えてくればガイドラインでも検討対象になるはずです」
あ〜なんてこった。日本の第一人者に対してとんでもないことを口走ってるぞこのバカは。と思っていると、僕たちの会話を盗み聞きしていたディレクターが、「その話をスタジオ内でしてくださいよ」といいます。よほど面白い雑談だったんでしょう。でも、「こういう話は公衆の面前でするような話ではありませんから」とお断りしました。
で、ふとモニターを見てみると、ずいぶん大勢の名医の方々が処方箋を提示してるじゃありませんか。
(人数合わせの仕込みというのは気のせいなのか? でもどうしてこの控え室は3人だけなんだ?)
だんだん訳がわからなくなってきました。
「さぁ、青田さんはどの処方箋を選ぶでしょう。ドクター・チェック!」
2人の司会者の声が聞こえました。もう間もなく終わりそうです。この時点で収録開始から1時間30分が経過していました。あれだけ多くの処方箋を出されたら、時間もかかるってもんです。たったひとつのテーマでこれだけの時間がかかったんです。とても3時間で収録が終わるとは思えません。長い夜になりそうな予感。
とりあえずひとつのテーマが終わり、スタジオ内のギャラリーとスタンバイしていたギャラリーが入れ替わります。僕たちもスタジオ内に招き入れられ、いよいよ本番の開始です。
*********************************
このギャラリーをテレビ業界では番組観覧者と呼ぶらしいのだが、18歳以上の女性に限定されることが多く、ネットやハガキで募集する場合もあれば、芸能プロダクションが無名タレントを紛れ込ませる場合もある。また番組によってはギャラが出ることも。
今回の番組ではネット上で募集したようだが、バラエティ番組ではこんなことやあんなこと、さらにはこんなこともごく日常的に行われている。これもよく覚えておいた方がいいかもしれない。
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ブログに書いたように1番乗りだった僕は、1番早く控え室に案内されました。その後、続々と名医の方々が到着され、偉い先生であればあるほど遅いご到着でした。
日本テレビからのメールには、「出演時は白衣を着用していただきます」とありました。もちろん僕だって白衣くらいは持ってますけど、ケーシー高峰じゃあるまいし、教育プログラムでは着用しません。ですから僕は背広組です。
白衣を着なくなって解ったことですが、白衣には良い意味でも悪い意味でもある種の魔力が宿っています。その魔力はテレビ局内でも鮮明に現れていました。白衣組と背広組とでは、周囲の視線はもちろんのこと、明らかに対応が違っていたのです。面白いものです。
それはさておき、控え室で名医の方々と名刺交換をしていると、男性ディレクターのNさんが現れて別室へ呼び出されました。そこでもやはり議論することを提案されましたが、ブログに書いたようにキッパリとお断りしました。扇子も使うように言われましたけど、これもお断りです。
後でEディレクターにも「空調は効いてますけど、照明は結構暑いので扇子を使いましょうよ」と言われました。小雨が降る寒い北海道から来た僕にとって、東京はあまりにも暑いからパタパタしてただけなのに、おかしなことにこだわるディレクターたちです。スーパーのワゴンセールで買った500円の扇子がよほど気に入ったとみえます。
「番組の流れとしては、健康上の問題を抱えたタレントさんが中央の丸椅子に着席し、それを取り囲むようにして医師の方々に着席してもらいます。そこでタレントさんの日常生活のVTRを見ていただき、処方箋をフリップに書いて提示してもらいます。その処方箋の内容を順番に説明していただき、タレントさんが処方箋を選ぶということになります。ですから長谷川先生は、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の後で処方箋の内容を説明してください。ボケのひとつもお願いしますね」
「と言われても、僕はお笑い芸人じゃないですよ」
簡単な打ち合わせを済ませて控え室へ戻ると、おかしなことに気づきました。同じ控え室の数人の先生たちが「ずいぶん急なことだったので、どういう番組かわからないんですよ。何か聞いてます? 3日前に連絡されても困りますよねぇ」と言い出したのです。
(あれれ? 名刺には立派な肩書きが書いてあるし、著書もたくさんあるとても偉い名医の先生がそんな扱いを受けているのか? なんかおかしいぞ)
「長谷川先生はいつごろ連絡がありました?」
「僕も急だったもので、飛行機のチケットを取るのに苦労しました」
不意討ちを喰らった僕は、咄嗟にウソをついてしまいました。でもよく考えてみると、腰痛がテーマの時は僕を含めて3名が処方箋を提示することになっています。でも、タレントさんを囲むテーブルには10名ほどが着席できるようなセットです。ということは、人数合わせのために呼ばれた名医が仕込まれているということになります。
テレビ局もなかなかやるものです。あれほどむきになって怒っていたEディレクターは、ただ単に純粋だったというわけです。若さっていいなぁと思いました。
午後5時30分に観客をスタジオ内に入れ、5時50分にタレントさんたちがスタジオ入り、6時に収録がスタートしました。テーマは、不眠症⇒腰痛⇒冷え性⇒肩こり⇒頭痛の順だったと記憶しています。出番までは時間がありましたので、暇をもてあましていた僕は、スタジオ入り口前のホールにある大きなモニターで観ていました。
名医の方々があれだけ揃っているのだからさぞかし勉強になるかと思いきや、「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」とアヒルさんたちの大合唱が始まりました(英和辞典で“quack”“quackery”を参照のこと)。エビデンスの有無に関わらず、自分の治療法の自慢話をもっとも大きな声、あるいは聞き心地のいい声で鳴くアヒルさんが選ばれるという仕組みのようです。
この世のものとは思えない信じられない光景です。あの中に放り込まれるのだとしたら、僕にとっては拷問以外の何物でもありません。何分間ぶち切れずに耐えられるだろうかと不安になり、頓服として主治医から手渡されていたデパス1mgを飲み、控え室に逃げ帰りました。いわゆる、世間で言うところのドーピングってやつですか。
それから少しすると、「もうそろそろなのでお願いしまーす」と名前の知らないディレクターらしき人に呼ばれ、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の部屋にも声をかけて、スタジオ横の控え室に連れて行かれました。そこにもモニターがあって、スタジオ内の様子が映っていました。
3人とも黙り込んでモニターを見ていたのですが、「オマエ挨拶してるか? 挨拶だけはタダだぞ」という菊地教授のことばを思い出し、突然立ち上がって名刺を差し出しながら「ご挨拶が遅れました。わたくし、菊地教授にご指導いただいている長谷川と申します。どうぞよろしくお願いします!」と、深々と頭を下げてお利口ちゃんのご挨拶ができました。
あまりにも突然だったのでお2人ともキョトンとしていましたが、「こ、こちらこそよろしくお願いします。今はちょうど名刺を控え室に置いてきたもので・・・」と慌てています。白衣姿だから名刺を持っていないのは当然でしょう。
で、レーザー手術のM先生は無反応でしたが、AKAのS先生は菊地教授の名前に反応を示し、モニターはそっちのけで僕との雑談が始まりました。「世界のKikuchiって国内でも結構知られてるジャン」と思いましたが、考えてみれば菊地教授は昨年の日本腰痛学会で会長を務めていて、AKAのS先生もそのシンポジウムで発表されていたことを思い出しました。
それから、つい先日、某有名私立医大の助教授にご馳走になったことを話すと、その助教授のことを知っているS先生の顔もほころび、益々話が弾んで長々と話し込んでしまいました。ところが気がつくと、調子に乗って取り返しのつかない生意気なことを口走っていました。
「世界の腰痛診療ガイドラインでもマニピュレーションをオプションとして推奨し始めてるんですから、頑張ってAKAのペーパーをたくさん出してくださいよ。何しろ日本から発信する唯一のマニピュレーションなんですからね。日本人はペーパーを突っ返されると二度と戻ってこないけどどうしてなんだ? と菊地教授が問い詰められたことがあるそうですよ。何度突っ返されてもペーパーを出し続けてくださいよ。ペーパーさえ増えてくればガイドラインでも検討対象になるはずです」
あ〜なんてこった。日本の第一人者に対してとんでもないことを口走ってるぞこのバカは。と思っていると、僕たちの会話を盗み聞きしていたディレクターが、「その話をスタジオ内でしてくださいよ」といいます。よほど面白い雑談だったんでしょう。でも、「こういう話は公衆の面前でするような話ではありませんから」とお断りしました。
で、ふとモニターを見てみると、ずいぶん大勢の名医の方々が処方箋を提示してるじゃありませんか。
(人数合わせの仕込みというのは気のせいなのか? でもどうしてこの控え室は3人だけなんだ?)
だんだん訳がわからなくなってきました。
「さぁ、青田さんはどの処方箋を選ぶでしょう。ドクター・チェック!」
2人の司会者の声が聞こえました。もう間もなく終わりそうです。この時点で収録開始から1時間30分が経過していました。あれだけ多くの処方箋を出されたら、時間もかかるってもんです。たったひとつのテーマでこれだけの時間がかかったんです。とても3時間で収録が終わるとは思えません。長い夜になりそうな予感。
とりあえずひとつのテーマが終わり、スタジオ内のギャラリーとスタンバイしていたギャラリーが入れ替わります。僕たちもスタジオ内に招き入れられ、いよいよ本番の開始です。
*********************************
このギャラリーをテレビ業界では番組観覧者と呼ぶらしいのだが、18歳以上の女性に限定されることが多く、ネットやハガキで募集する場合もあれば、芸能プロダクションが無名タレントを紛れ込ませる場合もある。また番組によってはギャラが出ることも。
今回の番組ではネット上で募集したようだが、バラエティ番組ではこんなことやあんなこと、さらにはこんなこともごく日常的に行われている。これもよく覚えておいた方がいいかもしれない。
2007年02月02日
テレビ収録騒動記(4)
今回は、収録日までの打ち合わせ内容である。
*********************************
最初の壁は、僕の肩書きでした。これにはいつも頭を悩ませてるんですけど、出演者全員に名札を付けるということになったらしく、「山田太郎/精神科/山田メンタルクリニック」「佐藤次郎/カイロプラクティック/佐藤治療院」といった形で、3行で表記するというのです。
「長谷川淳史/ /TMSジャパン」の1行目と3行目はいいとして、2行目が埋まらないのです。治療内容を表記するなら「TMSジャパン・メソッド」か「教育プログラム」となりますが、それこそ視聴者にはサッパリわかりません。腰痛診療ガイドラインの勧告に従った教育プログラムを行うという職業がないわけですから、まったくのお手上げです。結局、僕の職業は「腰痛ジャーナリスト」ということにされました。笑ってしまいます。
次の壁は、イエローフラッグです。フリップを使って「腰痛の危険度チェック」をしたいというわけです。そして各項目に点数をつけて、点数によって危険度を測定したいと。
「ニュージーランドガイドラインが発表しているイエローフラッグは51項目あるんですよ? それを全部フリップに載せるんですか?」
「いえいえ、重要なものを抜き出して8項目ほどにまとめてほしいんです。そして各項目に点数を割り当て、○点以上はかなり危険、○点以下は危険度が低い、という形にしていただけないでしょうか」
「いったい何を言ってるんですか。腰痛のスペシャリストたちが何年もかけて作成した内容を、僕が勝手に改ざんできるはずがないじゃないですか。それに点数を付けるなんて言語道断です。どんな問診スコアや心理テストにしても、しっかりとした研究デザインの基に統計学的な処理をして作られるんですよ。僕の勝手な想像でできることじゃありません」
「では、点数は付けないことにして、8項目に絞り込めないでしょうか」
「そんな無茶苦茶なことはできないですって。僕はこれまで事実だけを伝えようとして頑張ってきたんです。ここで僕の独断と偏見で腰痛になりやすい人をでっち上げてしまっては、これまでやってきたことが水の泡になってしまいますよ」
「こちらとしては、診療ガイドラインの重要性は認識していますし、オーストラリアのメディアキャンペーンも重視しています。ですが、視聴者は老若男女というか、とにかく小学生でも解るように説明していただきたいんです。では、早見優さんに限定した質問項目ということでしたらいかがですか?」
結局、Eディレクターの粘りに負けて、51項目のイエローフラッグを以下の8項目まで絞り込みました。
【1】腰痛を放っておくと大変なことになると思う。
【2】痛みが消え去るまで安静にしているべきだと思う。
【3】過去に効果の上がらない治療を受けたことがある。
【4】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【5】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【6】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【7】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【8】職場環境に不満がある。
ところが後になって、これでは少し多いので、以下の5つで了解してほしいといいます。
【1】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【2】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【3】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【4】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【5】職場環境に不満がある。
意識改革に不可欠な【1】と【2】がカットされていたのでビックリ仰天しましたが、結局強引に押し切られてしまいました。
「万が一、早見優さんがこの項目には該当しないと言ったらどうします? イエスと言うように仕込みますか?」
「そういう言い方をされると傷つきます! 私は今までヤラセなんか一度もしたことがありません! 事前の打ち合わせで色々とお話を伺いましたが、必ずあると言うはずです」
どうやらここでEディレクターを傷つけてしまったようです。かなりの剣幕で反論されました。Eディレクターは、この2〜3日は寝てないはずです。疲れがたまっている上に、難しい交渉をしなければならないので、とてもかわいそうになりました。不用意な発言でした。(ところが当日、とんでもない仕込みが発覚します)
そして第3の壁は、早見優さんへの処方箋です。
「番組では、各医師が処方箋という独自の治療方法を説明するシーンがあります。そこで、長谷川さんが推薦する処方箋について具体的な例を教えてください」
「そんなことを急に言われても、僕は早見優さんに会ったこともなければ、どんな症状があり、どんな背景があるのかも何ひとつ知りませんよ」
「M先生はレーザー手術、S先生はAKAという処方箋になります。長谷川さんの処方箋は、早見さんが楽しいと思えることをするのが一番の治療になるんです、という感じではいかがでしょうか」
「魔法使いじゃあるまいし、そんなバカげた話がありますか。どこの誰がそんな話を信用します? お願いですから腰痛患者を軽く見ないでくださいよ」
「でもストレスが原因だということを説明するにはいいと思うんですけど」
「ストレスという言葉は慎重に使わないと患者さんを傷つけることがあります。そう言われた患者さんは、気のせい、大げさ、仮病だと非難されたと感じる場合があるんですよ。ですから、(1)腰痛に対する不安や恐怖心を捨てる。(2)結果的な安静は別として、治療としての安静をやめる。(3)自分で治すという意識を持つ。そして最後の最後に、(4)ストレスを解消する。というのが僕の処方箋になります」
「それでは長すぎます。フリップに単純明快に書いてほしいんです」
「困りましたねぇ。では、(1)腰痛に対する意識改革。(2)ストレス解消法を学ぶ。というのは?」
「(1)意識改革。(2)人生を楽しむ。これでいかがでしょうか。この処方箋を示してから、その理由について説明していただけるとスマートだと思うんです。オーストラリアのキャンペーンの話や、先ほどの5つの危険因子を示して説明してくだされば、とても解りやすいと思います」
「わかりました。その線で行きましょうか」
こういう落とし所で妥協したのは収録前日の深夜、というよりすでに収録日を迎えていました。
*********************************
収録開始までのカウントダウンが始まっている中でのやり取りである。それだけに相手も必死だ。こちらも妥協できる点は妥協しなければ、不眠不休で頑張ってきたEさんの努力が無駄になってしまう。
最後の電話も、制作会議の直後に日本テレビからかけてきたようだし、すでに終電もなくなっている時間のはず。この1週間、自宅のベッドで休んだ日が何日あったのだろう。それを考えると、どんなことをしてでもEさんの努力に報いたくなるではないか。
だが、こうして気づかぬうちにおかしな方向へ向かっていくものらしい。
*********************************
最初の壁は、僕の肩書きでした。これにはいつも頭を悩ませてるんですけど、出演者全員に名札を付けるということになったらしく、「山田太郎/精神科/山田メンタルクリニック」「佐藤次郎/カイロプラクティック/佐藤治療院」といった形で、3行で表記するというのです。
「長谷川淳史/ /TMSジャパン」の1行目と3行目はいいとして、2行目が埋まらないのです。治療内容を表記するなら「TMSジャパン・メソッド」か「教育プログラム」となりますが、それこそ視聴者にはサッパリわかりません。腰痛診療ガイドラインの勧告に従った教育プログラムを行うという職業がないわけですから、まったくのお手上げです。結局、僕の職業は「腰痛ジャーナリスト」ということにされました。笑ってしまいます。
次の壁は、イエローフラッグです。フリップを使って「腰痛の危険度チェック」をしたいというわけです。そして各項目に点数をつけて、点数によって危険度を測定したいと。
「ニュージーランドガイドラインが発表しているイエローフラッグは51項目あるんですよ? それを全部フリップに載せるんですか?」
「いえいえ、重要なものを抜き出して8項目ほどにまとめてほしいんです。そして各項目に点数を割り当て、○点以上はかなり危険、○点以下は危険度が低い、という形にしていただけないでしょうか」
「いったい何を言ってるんですか。腰痛のスペシャリストたちが何年もかけて作成した内容を、僕が勝手に改ざんできるはずがないじゃないですか。それに点数を付けるなんて言語道断です。どんな問診スコアや心理テストにしても、しっかりとした研究デザインの基に統計学的な処理をして作られるんですよ。僕の勝手な想像でできることじゃありません」
「では、点数は付けないことにして、8項目に絞り込めないでしょうか」
「そんな無茶苦茶なことはできないですって。僕はこれまで事実だけを伝えようとして頑張ってきたんです。ここで僕の独断と偏見で腰痛になりやすい人をでっち上げてしまっては、これまでやってきたことが水の泡になってしまいますよ」
「こちらとしては、診療ガイドラインの重要性は認識していますし、オーストラリアのメディアキャンペーンも重視しています。ですが、視聴者は老若男女というか、とにかく小学生でも解るように説明していただきたいんです。では、早見優さんに限定した質問項目ということでしたらいかがですか?」
結局、Eディレクターの粘りに負けて、51項目のイエローフラッグを以下の8項目まで絞り込みました。
【1】腰痛を放っておくと大変なことになると思う。
【2】痛みが消え去るまで安静にしているべきだと思う。
【3】過去に効果の上がらない治療を受けたことがある。
【4】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【5】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【6】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【7】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【8】職場環境に不満がある。
ところが後になって、これでは少し多いので、以下の5つで了解してほしいといいます。
【1】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【2】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【3】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【4】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【5】職場環境に不満がある。
意識改革に不可欠な【1】と【2】がカットされていたのでビックリ仰天しましたが、結局強引に押し切られてしまいました。
「万が一、早見優さんがこの項目には該当しないと言ったらどうします? イエスと言うように仕込みますか?」
「そういう言い方をされると傷つきます! 私は今までヤラセなんか一度もしたことがありません! 事前の打ち合わせで色々とお話を伺いましたが、必ずあると言うはずです」
どうやらここでEディレクターを傷つけてしまったようです。かなりの剣幕で反論されました。Eディレクターは、この2〜3日は寝てないはずです。疲れがたまっている上に、難しい交渉をしなければならないので、とてもかわいそうになりました。不用意な発言でした。(ところが当日、とんでもない仕込みが発覚します)
そして第3の壁は、早見優さんへの処方箋です。
「番組では、各医師が処方箋という独自の治療方法を説明するシーンがあります。そこで、長谷川さんが推薦する処方箋について具体的な例を教えてください」
「そんなことを急に言われても、僕は早見優さんに会ったこともなければ、どんな症状があり、どんな背景があるのかも何ひとつ知りませんよ」
「M先生はレーザー手術、S先生はAKAという処方箋になります。長谷川さんの処方箋は、早見さんが楽しいと思えることをするのが一番の治療になるんです、という感じではいかがでしょうか」
「魔法使いじゃあるまいし、そんなバカげた話がありますか。どこの誰がそんな話を信用します? お願いですから腰痛患者を軽く見ないでくださいよ」
「でもストレスが原因だということを説明するにはいいと思うんですけど」
「ストレスという言葉は慎重に使わないと患者さんを傷つけることがあります。そう言われた患者さんは、気のせい、大げさ、仮病だと非難されたと感じる場合があるんですよ。ですから、(1)腰痛に対する不安や恐怖心を捨てる。(2)結果的な安静は別として、治療としての安静をやめる。(3)自分で治すという意識を持つ。そして最後の最後に、(4)ストレスを解消する。というのが僕の処方箋になります」
「それでは長すぎます。フリップに単純明快に書いてほしいんです」
「困りましたねぇ。では、(1)腰痛に対する意識改革。(2)ストレス解消法を学ぶ。というのは?」
「(1)意識改革。(2)人生を楽しむ。これでいかがでしょうか。この処方箋を示してから、その理由について説明していただけるとスマートだと思うんです。オーストラリアのキャンペーンの話や、先ほどの5つの危険因子を示して説明してくだされば、とても解りやすいと思います」
「わかりました。その線で行きましょうか」
こういう落とし所で妥協したのは収録前日の深夜、というよりすでに収録日を迎えていました。
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収録開始までのカウントダウンが始まっている中でのやり取りである。それだけに相手も必死だ。こちらも妥協できる点は妥協しなければ、不眠不休で頑張ってきたEさんの努力が無駄になってしまう。
最後の電話も、制作会議の直後に日本テレビからかけてきたようだし、すでに終電もなくなっている時間のはず。この1週間、自宅のベッドで休んだ日が何日あったのだろう。それを考えると、どんなことをしてでもEさんの努力に報いたくなるではないか。
だが、こうして気づかぬうちにおかしな方向へ向かっていくものらしい。
2007年02月01日
テレビ収録騒動記(3)
日帰り打ち合わせの続きである。
*********************************
パワーポイントとJPEGの画像ファイルを使って2〜3時間ほど説明した結果、僕の立ち位置は、ある特定の治療法を推薦するのではなく、世界で起きている腰痛革命を広く知っていただき、国民の意識改革を促すということは2人とも概ね理解してくれたようです。
ただし、「腰痛概念の劇的な転換」「生物・心理・社会的疼痛症候群」「EBM(根拠に基づく医療)」「エビデンス」「グリーンライト(自己限定性疾患)」「レッドフラッグ(生物学的危険因子)」「イエローフラッグ(心理・社会的危険因子)」などといった専門用語は、使わないでほしいと言われました。視聴者が理解できないからだそうです。
「だからこそ、それを優しい言葉で説明させてほしいんですよ。この核心部分を説明できないのなら、手足を縛られたも同然じゃないですか」
「でも視聴者にはそんな知識がないんです。小学生にも解るようにお願いできないでしょうか」
「ちょっと待ってください。視聴者を小学生扱いですか? もしかして国民をなめてません? 腰痛患者がどれだけ必死に情報を求めているか知らないんですか? 慢性腰痛患者は硬膜外ブロックと神経根ブロックの違いも知っていますし、手術も含めてありとあらゆる治療法を経験しているんですよ」
「いえいえ、それは違います! 視聴者はそんなに真剣に見てません。主婦が台所仕事をしていて、ふと気になるキーワードが耳に入って手を止めてくれれば、それでいいんですよ。ですから小学生を相手にしていると考えてほしいんです」
この2人のディレクターの猛反撃には愕然としました。本当に苦しんでいる腰痛患者が、テレビ番組から情報を得ようと必死になっている姿が想像できないのです。それにもまして悔しかったのは、腰痛患者のオツムの程度は小学生並みだと決め付けていたことです。
「そこで先生にお願いしたいのは、レーザー手術のM先生とAKAのS先生の意見に対して、腰痛診療ガイドラインの勧告に従って反論していただきたいのです」
「とんでもない。僕にはそんなことはできません。第1に、EBMで最も重要な点は、エビデンスそのものではなくて、エビデンスの適用性判断です。ガイドラインといったところで所詮は単なる指針であしかありません。それが通用するのはせいぜい60%、頑張っても95%と言われています。だからガイドラインの押し付けは暴力だと、ドクターハラスメントだと言ってるんです。第2に、医学はサイエンスに支えられたアートと言われています。もちろんエビデンスの裏付けがあるにこしたことはありませんが、基本的に医学はアートなんです。だから色んな治療法があっていいんです。第3に、どんな先生にも面子がありますしプライドもあります。それに信頼している患者さんが大勢いるはずです。エビデンスで追いつめて面子を潰してしまえば、患者さんからの信頼を失ってしまいます。そうなると信頼関係によって生じるプラシーボ効果が効かなくなります。つまり患者さんの治るチャンスを強引に奪ってしまうことになるんです。そんな権利は誰にもありませんよ」
「できれば激論していただけると、番組的にはありがたいんですけどね」
「そういうことなら他の人をあたってください。どんなに脅されても僕にはできませんから」
「わかりました。では収録は26日ということで、詳細は追ってご連絡させていただきます。そうそう、電話だけでなく、メールで話を詰めていってもかまいませんか?」
「もちろんです。名刺のメルールアドレスに一本メールしてルートを開いてください」
ということで時間切れとなりました。最終便に間に合うように日本テレビを後にしたわけですが、昼食が出るでもなし、日当が出るでもなし、何だか疲れ果ててクタクタになってしまいました。
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実をいうと、水くらいは飲ませてほしかったのだが、女性ディレクターのEさんも昼食を食べていない様子だったので、「1日くらい飲まず食わずでも人間は死にませんよ」とやせ我慢をしてしまった。
それはさておき、初めてコンタクトがあったのが10月10日、日帰り打ち合わせに行ったのが10月17日である。なのに番組収録は10月26日で、オンエアは11月11日と最初から決まっていた。つまり、取材期間は実質的に9日間しかなかったことになる。
こんなわずかな時間で、いったい何を、どこまで掘り下げてリサーチできるというのか。番組制作は、内容の正確さよりも、スピードが優先されるということをよく覚えておくべきだ。
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パワーポイントとJPEGの画像ファイルを使って2〜3時間ほど説明した結果、僕の立ち位置は、ある特定の治療法を推薦するのではなく、世界で起きている腰痛革命を広く知っていただき、国民の意識改革を促すということは2人とも概ね理解してくれたようです。
ただし、「腰痛概念の劇的な転換」「生物・心理・社会的疼痛症候群」「EBM(根拠に基づく医療)」「エビデンス」「グリーンライト(自己限定性疾患)」「レッドフラッグ(生物学的危険因子)」「イエローフラッグ(心理・社会的危険因子)」などといった専門用語は、使わないでほしいと言われました。視聴者が理解できないからだそうです。
「だからこそ、それを優しい言葉で説明させてほしいんですよ。この核心部分を説明できないのなら、手足を縛られたも同然じゃないですか」
「でも視聴者にはそんな知識がないんです。小学生にも解るようにお願いできないでしょうか」
「ちょっと待ってください。視聴者を小学生扱いですか? もしかして国民をなめてません? 腰痛患者がどれだけ必死に情報を求めているか知らないんですか? 慢性腰痛患者は硬膜外ブロックと神経根ブロックの違いも知っていますし、手術も含めてありとあらゆる治療法を経験しているんですよ」
「いえいえ、それは違います! 視聴者はそんなに真剣に見てません。主婦が台所仕事をしていて、ふと気になるキーワードが耳に入って手を止めてくれれば、それでいいんですよ。ですから小学生を相手にしていると考えてほしいんです」
この2人のディレクターの猛反撃には愕然としました。本当に苦しんでいる腰痛患者が、テレビ番組から情報を得ようと必死になっている姿が想像できないのです。それにもまして悔しかったのは、腰痛患者のオツムの程度は小学生並みだと決め付けていたことです。
「そこで先生にお願いしたいのは、レーザー手術のM先生とAKAのS先生の意見に対して、腰痛診療ガイドラインの勧告に従って反論していただきたいのです」
「とんでもない。僕にはそんなことはできません。第1に、EBMで最も重要な点は、エビデンスそのものではなくて、エビデンスの適用性判断です。ガイドラインといったところで所詮は単なる指針であしかありません。それが通用するのはせいぜい60%、頑張っても95%と言われています。だからガイドラインの押し付けは暴力だと、ドクターハラスメントだと言ってるんです。第2に、医学はサイエンスに支えられたアートと言われています。もちろんエビデンスの裏付けがあるにこしたことはありませんが、基本的に医学はアートなんです。だから色んな治療法があっていいんです。第3に、どんな先生にも面子がありますしプライドもあります。それに信頼している患者さんが大勢いるはずです。エビデンスで追いつめて面子を潰してしまえば、患者さんからの信頼を失ってしまいます。そうなると信頼関係によって生じるプラシーボ効果が効かなくなります。つまり患者さんの治るチャンスを強引に奪ってしまうことになるんです。そんな権利は誰にもありませんよ」
「できれば激論していただけると、番組的にはありがたいんですけどね」
「そういうことなら他の人をあたってください。どんなに脅されても僕にはできませんから」
「わかりました。では収録は26日ということで、詳細は追ってご連絡させていただきます。そうそう、電話だけでなく、メールで話を詰めていってもかまいませんか?」
「もちろんです。名刺のメルールアドレスに一本メールしてルートを開いてください」
ということで時間切れとなりました。最終便に間に合うように日本テレビを後にしたわけですが、昼食が出るでもなし、日当が出るでもなし、何だか疲れ果ててクタクタになってしまいました。
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実をいうと、水くらいは飲ませてほしかったのだが、女性ディレクターのEさんも昼食を食べていない様子だったので、「1日くらい飲まず食わずでも人間は死にませんよ」とやせ我慢をしてしまった。
それはさておき、初めてコンタクトがあったのが10月10日、日帰り打ち合わせに行ったのが10月17日である。なのに番組収録は10月26日で、オンエアは11月11日と最初から決まっていた。つまり、取材期間は実質的に9日間しかなかったことになる。
こんなわずかな時間で、いったい何を、どこまで掘り下げてリサーチできるというのか。番組制作は、内容の正確さよりも、スピードが優先されるということをよく覚えておくべきだ。








