最後の「神経根症状」というのは、腰痛よりも下肢痛(主に片側か片側優位)の方が強く、膝下からつま先まで痛みが放散したり、しびれや知覚異常、筋力低下がみられたりする場合である。全腰痛患者に占める割合は5〜10%で(Acute Low Back Pain Interdisciplinary Clinical Guidelines,2002)、6週間以内に50%の患者が自然に回復する(Clinical Guidelines for the Management of Acute Low Back Pain,2001)。
幸いなことに、「非特異的腰痛」と「神経根症状」のふたつはグリーンライトと呼ばれ、ある決まった経過をたどって一定期間で自然に終息する予後良好の自己限定性疾患(self-limited disease)である。つまり、軽い風邪をひいた、ちょっとお腹をこわした、あるいはさかむけ(ささくれ)ができたのと同じで、治療しようがしまいが遅かれ早かれ治ってしまう運命にあるというわけだ。
鼻水が出たからといって恐怖におののく人はいない。くしゃみが出たからといってショックで落ち込む人はいない。便が少し柔らかいからといって救急車を呼ぼうとする人はいない。さかむけができたからといって手術を覚悟する人はいないのである。
いずれにしろ、腰痛が起きたら真っ先にレッドフラッグの有無を確認するのが鉄則だ。それがなければグリーンライトなので、すぐに良くなる自己限定性疾患だと思って安心してもらいたい。もちろん画像検査も血液検査も必要ない。そして痛みの許す範囲内で普段どおりの生活を続けてほしい。それが現時点でもっとも効果的な治療法なのである。誰が何といおうとグリーンライトは万国共通のGOサインだ。治らないわけがない。
とはいうものの、急性腰痛の2〜7%は慢性腰痛に移行してしまい(Frymoyer JW,1988)、スウェーデンでは成人の23%が慢性腰痛に苦しんでいるという驚くべき報告もある(Andersson HI.et al,1993)。
自己限定性疾患であるはずのグリーンライトが、なぜいつまでも回復しないのか。それはイエローフラッグがあるからだ。レッドフラッグが生物学的危険因子だとするなら、イエローフラッグは心理社会的危険因子といえるものである。

これは腰痛の発症に深く関わっている危険因子であり、腰痛を慢性化させ、職場復帰を遅らせ、再発率を高める危険因子でもある(Linton SJ, 2000)。したがって、できるだけ早い時期に、理想的には初診時の段階でイエローフラッグの存在を確認するのが望ましい。
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