疑問点の解決に必要な文献を入手したら、その研究内容が信頼に値するかどうかを検討しなければならない。自分にとって好都合な研究にしがみつくのは危険である。研究デザインの質やエビデンスレベルが低いと信頼性に大きな問題があるし、その後の追試によって結論が覆るかもしれないからだ。
また、「治療した」⇒「治った」⇒「故に効いた」という『三た論法』はエビデンスではない。このクワッカリー(イカサマ師)が使う常套手段を信じ込んでしまうと、何ひとつ効果がないばかりか、時には有害な治療に大金を投入する危険が生じる。その道の権威、あるいは専門家といわれる大学教授でさえも、気づかぬうちに『三た論法』の罠にはまっていることがよくある。
溺れる者は藁をもつかむというが、『三た論法』にまんまと騙されて、藁などつかんではならないのだ。
藁をつかまないためには、研究デザインの質とエビデンスレベル(科学的根拠としての信頼性の高さ)を厳しく審査し、その研究から得られた結論が信頼できるかどうかを検討する必要がある。ここではヨーロッパガイドラインが採用した基準を紹介する(European Guidelines for The Management of Acute Nonspecific Low Back Pain in Primary Care,2004)(European Guidelines for The Management of Chronic Nonspecific Low Back Pain,2004)(European Guidelines for Prevention in Low Back Pain,2004)。
まず、研究デザインの質を評価するチェックリストを以下に示す。


各項目に1ポイントが割り当てられ、5ポイント以上が質の高い研究、4ポイント以下が質の低い研究と判定する。
エビデンスレベルの判定は以下のとおりである。


考えてみてほしい。このステップを終了させるまでには、いくらコンピュータを駆使したとはいえ、相当な時間と労力を費やさなければならない。とても目の前に患者を待たせたままできる作業ではない。だからこそ、ステップ3までをまとめた診療ガイドラインが必要なのだ。
しかも、診療ガイドラインは3年毎に更新されるので、使わない手はないだろう。研究に専念できる立場なら話は別だが、毎日クタクタになりながら患者を診ている治療者は、ステップ1からステップ3までをすっ飛ばしてしまえばいい。
だからといって、診療ガイドラインをそのまま患者に押しつけてはならない。患者に診療ガイドラインを押しつけることは、医療行為ではなく暴力的行為といえるものであり、ドクターハラスメントといっても過言ではない。
EBMでもっとも重要なのは、診療ガイドラインを作成することではなく、実はステップ4の適用性判断なのだ。いくら最新の診療ガイドラインといえども、それはひとつの体系的レビューにすぎないと考えるべきである。
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