だが、何が急性腰痛で何が慢性腰痛なのか明確ではない。そこでまずこの両者の違いをはっきりさせておく。
現在、世界各国ほとんどの腰痛診療ガイドラインが、下肢症状の有無にかかわらず、腰痛を次のように定義している。
【1】急性腰痛――発症後6週間未満の腰痛
【2】亜急性腰痛――発症後6週間〜12週間(3カ月)未満の腰痛
【3】慢性腰痛――発症後12週間(3カ月)以上持続している腰痛
亜急性腰痛という耳慣れないことばが出てきたが、これは医学界が長年使ってきた急性腰痛と慢性腰痛の中間の概念である。しかしここでは、特に言及しないかぎり亜急性腰痛も急性腰痛として取り扱う。つまり、急性腰痛の定義は発症後3カ月未満の腰痛ということである。
また腰痛の再発については、慢性腰痛の悪化という捉え方ではなく、6カ月以上症状のない期間があったのち、新たに発症した急性腰痛と考えてもらいたい。したがって、「再発性腰痛」=「急性腰痛」ということになる。
慢性腰痛は、下肢症状の有無にかかわらず発症後3カ月以上持続している腰痛で、頻繁に再発を繰り返している腰痛(症状のない期間が6カ月未満)や、活動障害はなくとも痛みだけが続いている場合、あまりにもひどい腰痛のためにほぼ寝たきりになっている場合が含まれる。
さて、これから2004年に発表されたヨーロッパガイドラインより、「急性腰痛の対処法」「慢性腰痛の対処法」「腰痛の予防法」について少しずつ紹介していこうと思うが、ヨーロッパガイドラインに着目したのは以下の理由による。
【1】現存する腰痛診療ガイドラインの中でもっとも新しい。
【2】ヨーロッパの14カ国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、イスラエル、イタリア、オランダ、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、イギリス)から選抜された、どんな利害関係もないエキスパートが作成している。
【3】文献検索は英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、フィンランド語、スウェーデン語が含まれ、過去に例がないほど広範囲である。
【4】今までの腰痛診療ガイドラインはすべて「急性腰痛」を対象にしたものだったが、ヨーロッパガイドラインは世界で初めて「慢性腰痛」と「予防法」を加えたガイドラインである。
急に腰が痛くなった人が、すぐさまTMSジャパンのサイトに辿り着くことは、まず考えられない。常識的に考えて、近くの整形外科医か代替医療の治療家を探すだろう。もちろん、書店へ駆け込んで治し方を学ぼうとする人などいるはずがない。それに、レッドフラッグのないグリーンライトならば、イエローフラッグが邪魔をしないかぎり治療の有無にかかわらず数週間以内に治ってしまうだろう。
つまり、ここを読んでいる人の大部分は、医療関係者を除けば慢性腰痛で苦しんでいる可能性が高く、一番知りたがっているのは慢性腰痛の治し方に違いない。したがって、急性腰痛よりも先に慢性腰痛の対処法から始めることにする。
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