2007年01月28日

技術者から学ぶ

先日の個人治療プログラムで、ある技術者からとても面白い話を聴かせていただいた。それはEBMについて説明していた時だった。

もう耳にタコができるほど聞かされているのでウンザリという方もおられるかと思うが、EBMを正しく理解していない医師の多さに愕然とした出来事があったので、復習の意味も込めてここで簡単に説明しておこう。

EBMは、疑問点抽出文献検索批判的吟味適用性判断という4つのステップから構成されている。

これら4ステップのうち、第1〜第3ステップまでがサイエンスであり、最後の適応性判断がEBMの根幹をなすもっとも重要なアートというステップである。これについてはEBMとは何かをご覧いただきたい。

要するに、「ガイドライン」=「EBM」でないということである。ガイドラインは使いこなすものであって、けっして使われてはいけない。ガイドラインの押し付けは、ドクターハラスメント以外の何物でもないのだ。

EBMとは、最新のガイドラインを熟知した上で、個々の患者の個人的背景と価値観を考慮した医療を行うことである。したがって、同じガイドラインを参考にしたとしても、65億通りの治療法が存在することになる。

これが「医学はサイエンスに支えられたアートである」といわれるゆえんである。何度も繰り返すが、医学は基本的にアートなのだという点を強調しておきたい。

さて、ここまで説明したところで患者さんが微笑んでいるではないか。その理由を尋ねてみると、こんな話をしてくれた。

「われわれ技術屋の世界と同じですね。ある理論に従って緻密な計算の上に設計された製品であっても、最終的には現場の職人さんの目と手が必要になるんです。理論的にはあり得ないはずなんですけど、不思議なことに職人さんのチェックがなければ良い製品は完成しないんですよ」

なるほど、そういうものなのか。世の中には理論や理屈で説明のつかない世界が、他にもたくさんあるというわけだ。いまだに謎だらけの人間を扱っているのだから、当然といえば当然かもしれないけど、この赤い彗星にとってはとても新鮮な驚きを覚えた瞬間だった。

どうやら、学べる材料はどこにでも転がっているものらしい。なんともありがたいことである。


posted by 長谷川 淳史 at 01:16| EBM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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