2007年02月01日

テレビ収録騒動記(3)

日帰り打ち合わせの続きである。

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パワーポイントとJPEGの画像ファイルを使って2〜3時間ほど説明した結果、僕の立ち位置は、ある特定の治療法を推薦するのではなく、世界で起きている腰痛革命を広く知っていただき、国民の意識改革を促すということは2人とも概ね理解してくれたようです。

ただし、「腰痛概念の劇的な転換」「生物・心理・社会的疼痛症候群」「EBM(根拠に基づく医療)」「エビデンス」「グリーンライト(自己限定性疾患)」「レッドフラッグ(生物学的危険因子)」「イエローフラッグ(心理・社会的危険因子)」などといった専門用語は、使わないでほしいと言われました。視聴者が理解できないからだそうです。

「だからこそ、それを優しい言葉で説明させてほしいんですよ。この核心部分を説明できないのなら、手足を縛られたも同然じゃないですか」

「でも視聴者にはそんな知識がないんです。小学生にも解るようにお願いできないでしょうか」

「ちょっと待ってください。視聴者を小学生扱いですか? もしかして国民をなめてません? 腰痛患者がどれだけ必死に情報を求めているか知らないんですか? 慢性腰痛患者は硬膜外ブロックと神経根ブロックの違いも知っていますし、手術も含めてありとあらゆる治療法を経験しているんですよ」

「いえいえ、それは違います! 視聴者はそんなに真剣に見てません。主婦が台所仕事をしていて、ふと気になるキーワードが耳に入って手を止めてくれれば、それでいいんですよ。ですから小学生を相手にしていると考えてほしいんです」   

この2人のディレクターの猛反撃には愕然としました。本当に苦しんでいる腰痛患者が、テレビ番組から情報を得ようと必死になっている姿が想像できないのです。それにもまして悔しかったのは、腰痛患者のオツムの程度は小学生並みだと決め付けていたことです。

「そこで先生にお願いしたいのは、レーザー手術のM先生とAKAのS先生の意見に対して、腰痛診療ガイドラインの勧告に従って反論していただきたいのです」

「とんでもない。僕にはそんなことはできません。第1に、EBMで最も重要な点は、エビデンスそのものではなくて、エビデンスの適用性判断です。ガイドラインといったところで所詮は単なる指針であしかありません。それが通用するのはせいぜい60%、頑張っても95%と言われています。だからガイドラインの押し付けは暴力だと、ドクターハラスメントだと言ってるんです。第2に、医学はサイエンスに支えられたアートと言われています。もちろんエビデンスの裏付けがあるにこしたことはありませんが、基本的に医学はアートなんです。だから色んな治療法があっていいんです。第3に、どんな先生にも面子がありますしプライドもあります。それに信頼している患者さんが大勢いるはずです。エビデンスで追いつめて面子を潰してしまえば、患者さんからの信頼を失ってしまいます。そうなると信頼関係によって生じるプラシーボ効果が効かなくなります。つまり患者さんの治るチャンスを強引に奪ってしまうことになるんです。そんな権利は誰にもありませんよ」

「できれば激論していただけると、番組的にはありがたいんですけどね」

「そういうことなら他の人をあたってください。どんなに脅されても僕にはできませんから」

「わかりました。では収録は26日ということで、詳細は追ってご連絡させていただきます。そうそう、電話だけでなく、メールで話を詰めていってもかまいませんか?」

「もちろんです。名刺のメルールアドレスに一本メールしてルートを開いてください」

ということで時間切れとなりました。最終便に間に合うように日本テレビを後にしたわけですが、昼食が出るでもなし、日当が出るでもなし、何だか疲れ果ててクタクタになってしまいました。

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実をいうと、水くらいは飲ませてほしかったのだが、女性ディレクターのEさんも昼食を食べていない様子だったので、「1日くらい飲まず食わずでも人間は死にませんよ」とやせ我慢をしてしまった。

それはさておき、初めてコンタクトがあったのが10月10日、日帰り打ち合わせに行ったのが10月17日である。なのに番組収録は10月26日で、オンエアは11月11日と最初から決まっていた。つまり、取材期間は実質的に9日間しかなかったことになる。

こんなわずかな時間で、いったい何を、どこまで掘り下げてリサーチできるというのか。番組制作は、内容の正確さよりも、スピードが優先されるということをよく覚えておくべきだ。

posted by 長谷川 淳史 at 16:27| 医療システム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする