2007年02月02日

テレビ収録騒動記(4)

今回は、収録日までの打ち合わせ内容である。

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最初の壁は、僕の肩書きでした。これにはいつも頭を悩ませてるんですけど、出演者全員に名札を付けるということになったらしく、「山田太郎/精神科/山田メンタルクリニック」「佐藤次郎/カイロプラクティック/佐藤治療院」といった形で、3行で表記するというのです。

「長谷川淳史/    /TMSジャパン」の1行目と3行目はいいとして、2行目が埋まらないのです。治療内容を表記するなら「TMSジャパン・メソッド」か「教育プログラム」となりますが、それこそ視聴者にはサッパリわかりません。腰痛診療ガイドラインの勧告に従った教育プログラムを行うという職業がないわけですから、まったくのお手上げです。結局、僕の職業は「腰痛ジャーナリスト」ということにされました。笑ってしまいます。

次の壁は、イエローフラッグです。フリップを使って「腰痛の危険度チェック」をしたいというわけです。そして各項目に点数をつけて、点数によって危険度を測定したいと。

「ニュージーランドガイドラインが発表しているイエローフラッグは51項目あるんですよ? それを全部フリップに載せるんですか?」

「いえいえ、重要なものを抜き出して8項目ほどにまとめてほしいんです。そして各項目に点数を割り当て、○点以上はかなり危険、○点以下は危険度が低い、という形にしていただけないでしょうか」

「いったい何を言ってるんですか。腰痛のスペシャリストたちが何年もかけて作成した内容を、僕が勝手に改ざんできるはずがないじゃないですか。それに点数を付けるなんて言語道断です。どんな問診スコアや心理テストにしても、しっかりとした研究デザインの基に統計学的な処理をして作られるんですよ。僕の勝手な想像でできることじゃありません」

「では、点数は付けないことにして、8項目に絞り込めないでしょうか」

「そんな無茶苦茶なことはできないですって。僕はこれまで事実だけを伝えようとして頑張ってきたんです。ここで僕の独断と偏見で腰痛になりやすい人をでっち上げてしまっては、これまでやってきたことが水の泡になってしまいますよ」

「こちらとしては、診療ガイドラインの重要性は認識していますし、オーストラリアのメディアキャンペーンも重視しています。ですが、視聴者は老若男女というか、とにかく小学生でも解るように説明していただきたいんです。では、早見優さんに限定した質問項目ということでしたらいかがですか?」

結局、Eディレクターの粘りに負けて、51項目のイエローフラッグを以下の8項目まで絞り込みました。

【1】腰痛を放っておくと大変なことになると思う。
【2】痛みが消え去るまで安静にしているべきだと思う。
【3】過去に効果の上がらない治療を受けたことがある。
【4】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【5】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【6】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【7】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【8】職場環境に不満がある。

ところが後になって、これでは少し多いので、以下の5つで了解してほしいといいます。

【1】手術を連想するような病名を告げられて不安になったことがある。
【2】日頃からストレスを感じていたり、時には落ち込んだりすることがある。
【3】家族の問題で心配なことや気がかりなことがある。
【4】今の仕事は腰に悪いと考えている。
【5】職場環境に不満がある。

意識改革に不可欠な【1】と【2】がカットされていたのでビックリ仰天しましたが、結局強引に押し切られてしまいました。

「万が一、早見優さんがこの項目には該当しないと言ったらどうします? イエスと言うように仕込みますか?」

「そういう言い方をされると傷つきます! 私は今までヤラセなんか一度もしたことがありません! 事前の打ち合わせで色々とお話を伺いましたが、必ずあると言うはずです」

どうやらここでEディレクターを傷つけてしまったようです。かなりの剣幕で反論されました。Eディレクターは、この2〜3日は寝てないはずです。疲れがたまっている上に、難しい交渉をしなければならないので、とてもかわいそうになりました。不用意な発言でした。(ところが当日、とんでもない仕込みが発覚します)

そして第3の壁は、早見優さんへの処方箋です。

「番組では、各医師が処方箋という独自の治療方法を説明するシーンがあります。そこで、長谷川さんが推薦する処方箋について具体的な例を教えてください」

「そんなことを急に言われても、僕は早見優さんに会ったこともなければ、どんな症状があり、どんな背景があるのかも何ひとつ知りませんよ」

「M先生はレーザー手術、S先生はAKAという処方箋になります。長谷川さんの処方箋は、早見さんが楽しいと思えることをするのが一番の治療になるんです、という感じではいかがでしょうか」

「魔法使いじゃあるまいし、そんなバカげた話がありますか。どこの誰がそんな話を信用します? お願いですから腰痛患者を軽く見ないでくださいよ」

「でもストレスが原因だということを説明するにはいいと思うんですけど」

「ストレスという言葉は慎重に使わないと患者さんを傷つけることがあります。そう言われた患者さんは、気のせい、大げさ、仮病だと非難されたと感じる場合があるんですよ。ですから、(1)腰痛に対する不安や恐怖心を捨てる。(2)結果的な安静は別として、治療としての安静をやめる。(3)自分で治すという意識を持つ。そして最後の最後に、(4)ストレスを解消する。というのが僕の処方箋になります」

「それでは長すぎます。フリップに単純明快に書いてほしいんです」

「困りましたねぇ。では、(1)腰痛に対する意識改革。(2)ストレス解消法を学ぶ。というのは?」

「(1)意識改革。(2)人生を楽しむ。これでいかがでしょうか。この処方箋を示してから、その理由について説明していただけるとスマートだと思うんです。オーストラリアのキャンペーンの話や、先ほどの5つの危険因子を示して説明してくだされば、とても解りやすいと思います」

「わかりました。その線で行きましょうか」

こういう落とし所で妥協したのは収録前日の深夜、というよりすでに収録日を迎えていました。

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収録開始までのカウントダウンが始まっている中でのやり取りである。それだけに相手も必死だ。こちらも妥協できる点は妥協しなければ、不眠不休で頑張ってきたEさんの努力が無駄になってしまう。

最後の電話も、制作会議の直後に日本テレビからかけてきたようだし、すでに終電もなくなっている時間のはず。この1週間、自宅のベッドで休んだ日が何日あったのだろう。それを考えると、どんなことをしてでもEさんの努力に報いたくなるではないか。

だが、こうして気づかぬうちにおかしな方向へ向かっていくものらしい。
posted by 長谷川 淳史 at 00:41| 医療システム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする