2007年02月03日

テレビ収録騒動記(5)

今回からは、収録が行われた麹町の日本テレビKスタジオでの出来事である。

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ブログに書いたように1番乗りだった僕は、1番早く控え室に案内されました。その後、続々と名医の方々が到着され、偉い先生であればあるほど遅いご到着でした。

日本テレビからのメールには、「出演時は白衣を着用していただきます」とありました。もちろん僕だって白衣くらいは持ってますけど、ケーシー高峰じゃあるまいし、教育プログラムでは着用しません。ですから僕は背広組です。

白衣を着なくなって解ったことですが、白衣には良い意味でも悪い意味でもある種の魔力が宿っています。その魔力はテレビ局内でも鮮明に現れていました。白衣組と背広組とでは、周囲の視線はもちろんのこと、明らかに対応が違っていたのです。面白いものです。

それはさておき、控え室で名医の方々と名刺交換をしていると、男性ディレクターのNさんが現れて別室へ呼び出されました。そこでもやはり議論することを提案されましたが、ブログに書いたようにキッパリとお断りしました。扇子も使うように言われましたけど、これもお断りです。

後でEディレクターにも「空調は効いてますけど、照明は結構暑いので扇子を使いましょうよ」と言われました。小雨が降る寒い北海道から来た僕にとって、東京はあまりにも暑いからパタパタしてただけなのに、おかしなことにこだわるディレクターたちです。スーパーのワゴンセールで買った500円の扇子がよほど気に入ったとみえます。

「番組の流れとしては、健康上の問題を抱えたタレントさんが中央の丸椅子に着席し、それを取り囲むようにして医師の方々に着席してもらいます。そこでタレントさんの日常生活のVTRを見ていただき、処方箋をフリップに書いて提示してもらいます。その処方箋の内容を順番に説明していただき、タレントさんが処方箋を選ぶということになります。ですから長谷川先生は、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の後で処方箋の内容を説明してください。ボケのひとつもお願いしますね」

「と言われても、僕はお笑い芸人じゃないですよ」

簡単な打ち合わせを済ませて控え室へ戻ると、おかしなことに気づきました。同じ控え室の数人の先生たちが「ずいぶん急なことだったので、どういう番組かわからないんですよ。何か聞いてます? 3日前に連絡されても困りますよねぇ」と言い出したのです。

(あれれ? 名刺には立派な肩書きが書いてあるし、著書もたくさんあるとても偉い名医の先生がそんな扱いを受けているのか? なんかおかしいぞ)

「長谷川先生はいつごろ連絡がありました?」

「僕も急だったもので、飛行機のチケットを取るのに苦労しました」

不意討ちを喰らった僕は、咄嗟にウソをついてしまいました。でもよく考えてみると、腰痛がテーマの時は僕を含めて3名が処方箋を提示することになっています。でも、タレントさんを囲むテーブルには10名ほどが着席できるようなセットです。ということは、人数合わせのために呼ばれた名医が仕込まれているということになります。

テレビ局もなかなかやるものです。あれほどむきになって怒っていたEディレクターは、ただ単に純粋だったというわけです。若さっていいなぁと思いました。

午後5時30分に観客をスタジオ内に入れ、5時50分にタレントさんたちがスタジオ入り、6時に収録がスタートしました。テーマは、不眠症⇒腰痛⇒冷え性⇒肩こり⇒頭痛の順だったと記憶しています。出番までは時間がありましたので、暇をもてあましていた僕は、スタジオ入り口前のホールにある大きなモニターで観ていました。

名医の方々があれだけ揃っているのだからさぞかし勉強になるかと思いきや、「クワッ、クワッ、クワッ、クワッ」とアヒルさんたちの大合唱が始まりました(英和辞典で“quack”“quackery”を参照のこと)。エビデンスの有無に関わらず、自分の治療法の自慢話をもっとも大きな声、あるいは聞き心地のいい声で鳴くアヒルさんが選ばれるという仕組みのようです。

この世のものとは思えない信じられない光景です。あの中に放り込まれるのだとしたら、僕にとっては拷問以外の何物でもありません。何分間ぶち切れずに耐えられるだろうかと不安になり、頓服として主治医から手渡されていたデパス1mgを飲み、控え室に逃げ帰りました。いわゆる、世間で言うところのドーピングってやつですか。

それから少しすると、「もうそろそろなのでお願いしまーす」と名前の知らないディレクターらしき人に呼ばれ、AKAのS先生とレーザー手術のM先生の部屋にも声をかけて、スタジオ横の控え室に連れて行かれました。そこにもモニターがあって、スタジオ内の様子が映っていました。

3人とも黙り込んでモニターを見ていたのですが、「オマエ挨拶してるか? 挨拶だけはタダだぞ」という菊地教授のことばを思い出し、突然立ち上がって名刺を差し出しながら「ご挨拶が遅れました。わたくし、菊地教授にご指導いただいている長谷川と申します。どうぞよろしくお願いします!」と、深々と頭を下げてお利口ちゃんのご挨拶ができました。

あまりにも突然だったのでお2人ともキョトンとしていましたが、「こ、こちらこそよろしくお願いします。今はちょうど名刺を控え室に置いてきたもので・・・」と慌てています。白衣姿だから名刺を持っていないのは当然でしょう。

で、レーザー手術のM先生は無反応でしたが、AKAのS先生は菊地教授の名前に反応を示し、モニターはそっちのけで僕との雑談が始まりました。「世界のKikuchiって国内でも結構知られてるジャン」と思いましたが、考えてみれば菊地教授は昨年の日本腰痛学会で会長を務めていて、AKAのS先生もそのシンポジウムで発表されていたことを思い出しました。

それから、つい先日、某有名私立医大の助教授にご馳走になったことを話すと、その助教授のことを知っているS先生の顔もほころび、益々話が弾んで長々と話し込んでしまいました。ところが気がつくと、調子に乗って取り返しのつかない生意気なことを口走っていました。

「世界の腰痛診療ガイドラインでもマニピュレーションをオプションとして推奨し始めてるんですから、頑張ってAKAのペーパーをたくさん出してくださいよ。何しろ日本から発信する唯一のマニピュレーションなんですからね。日本人はペーパーを突っ返されると二度と戻ってこないけどどうしてなんだ? と菊地教授が問い詰められたことがあるそうですよ。何度突っ返されてもペーパーを出し続けてくださいよ。ペーパーさえ増えてくればガイドラインでも検討対象になるはずです」

あ〜なんてこった。日本の第一人者に対してとんでもないことを口走ってるぞこのバカは。と思っていると、僕たちの会話を盗み聞きしていたディレクターが、「その話をスタジオ内でしてくださいよ」といいます。よほど面白い雑談だったんでしょう。でも、「こういう話は公衆の面前でするような話ではありませんから」とお断りしました。

で、ふとモニターを見てみると、ずいぶん大勢の名医の方々が処方箋を提示してるじゃありませんか。

(人数合わせの仕込みというのは気のせいなのか? でもどうしてこの控え室は3人だけなんだ?)

だんだん訳がわからなくなってきました。 

「さぁ、青田さんはどの処方箋を選ぶでしょう。ドクター・チェック!」

2人の司会者の声が聞こえました。もう間もなく終わりそうです。この時点で収録開始から1時間30分が経過していました。あれだけ多くの処方箋を出されたら、時間もかかるってもんです。たったひとつのテーマでこれだけの時間がかかったんです。とても3時間で収録が終わるとは思えません。長い夜になりそうな予感。

とりあえずひとつのテーマが終わり、スタジオ内のギャラリーとスタンバイしていたギャラリーが入れ替わります。僕たちもスタジオ内に招き入れられ、いよいよ本番の開始です。

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このギャラリーをテレビ業界では番組観覧者と呼ぶらしいのだが、18歳以上の女性に限定されることが多く、ネットやハガキで募集する場合もあれば、芸能プロダクションが無名タレントを紛れ込ませる場合もある。また番組によってはギャラが出ることも。

今回の番組ではネット上で募集したようだが、バラエティ番組ではこんなことあんなこと、さらにはこんなこともごく日常的に行われている。これもよく覚えておいた方がいいかもしれない。
posted by 長谷川 淳史 at 00:07| 医療システム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする