2007年02月07日

メディア・リテラシーの壁

『サーノ博士のヒーリング・バックペイン』が出版され、ホームページを立ち上げ、『腰痛は<怒り>である』を上梓してTMS理論が話題になったころ、インターネット上で強烈なバッシングを受けたことを覚えているだろうか。

従来の古典的な常識や、メディア情報を信じて疑わない人々による情け容赦のない誹謗中傷で、とても多くの人々が傷ついたし、この赤い彗星もほとほと疲れ果ててしまった。

日本最大の腰痛掲示板「腰痛の広場」が閉鎖に至ったのも、実はこの赤い彗星に責任の一端があるのではないかと考え、管理人の見城昌平さんに直接会って謝ったりもした。心の広い見城さんは「まったくの個人的理由です」とおっしゃってくれたが、今でも心の片隅では申し訳なく思っている。

このころ感じたのは、人は一度信じ込んでしまった常識を簡単に捨てられないということ、そして活字による情報提供には限界があるということだ。たしかにこの赤い彗星の表現力不足は否定できない。しかし、本には書かれていない情報、いわば行間を読もうとする者があまりにも少ないことに大きなショックを受けた。

そこで視覚と聴覚に訴える手段として「TMSジャパン・メソッド」を考案したわけだが、この方法にも問題があった。

当初の「TMSジャパン・メソッド」は、フェーズ1とフェーズ2の2日間にわる治療プログラムだった。ところが、フェーズ2で「医学の誤謬」と題してメディア・リテラシーに触れてはいたが、2日間の内容をすべて記憶するのは事実上不可能である。おまけにどちらかのフェーズを受講しただけで、すべてわかったような気になる輩も出てきてしまった。いくら赤い彗星のプレゼンテーションが稚拙だったとはいえ、これでは治療プログラムそのものの真価が問われてしまう。

そこで「TMSジャパン・メソッド」を1日にまとめ、2日分の内容をDVDかビデオで提供することにした。こうすれば自宅で何度も復習できるからだ。しかしそこまでしても、メディア・リテラシーの重要性や、この赤い彗星はいったい何を考えているのかなど、まだまだ十分に理解されていないことが判明した。事実、受講後にクワッカリーの餌食になって数百万円も支払った者がいるのだ。

「をいをい、ちゃんと復習してるのか? なんなら『攻殻機動隊』や『マトリックス』で使ってたあのプラグを差し込んでやろうか?」と、他人に責任を押し付けるわけにもいかない。そもそもこの赤い彗星の表現力に問題があるのだ。でも、ちょっとした壁にぶち当たってしまった心境ではある。

そこに追い討ちをかけたのが「補完・代替医療総覧」の連載だった。まだ発刊されていないが、次号からはクワッカリー(インチキ治療、イカサマ師、健康詐欺)がテーマとなる。このクワッカリーがよく使う巧妙な手口を調べれば調べるほど、メディア・リテラシーの壁が巨大に思えてきた。いくら赤い彗星が新型モビルスーツに搭乗し、すべてのファンネルを放出たとしても、そう簡単には破壊できないことを悟った。

メディア・リテラシーは、今もなお大きな壁となってこの赤い彗星の前に立ちはだかっている。これはベルリンの壁よりはるかに頑丈だ。そこでメディア・リテラシーについて参考になるいくつかの本を紹介したい。ひとりでもふたりでもいい、この忌々しい壁を打ち破ってほしい。

まず、菅谷明子『メディア・リテラシー』(岩波書店)だ。いうまでもなく、われわれは人生の大半をメディアとともに過ごしている。そこで必要になるのはメディア・リテラシー教育、すなわち情報の中に潜むさまざまなバイアスを見破る力を養うことである。近年、ようやく日本でも関心が高まりつつあるようだが、メディア・リテラシー教育の先進国から学ぶことは実に多い。この本は、イギリス、カナダ、アメリカの3ヶ国に焦点を絞り、各国の教育現場やメディア業界の取り組み、メディアを監視する市民団体の活動などを現場から報告している。

次は、森達也『世界を信じるためのメソッド―僕らの時代のメディア・リテラシー』(理論社)だ。メディアと情報の洪水の中で、われわれは何を信じ、何を疑い、どのように考えて行けばいいのかを、きわめて単純明快に解説している。日本でメディア・リテラシー教育を始めるとなれば、この本は素晴らしい教科書となるだろう。なにしろ小学生でも解るように書かれているのだ。これを読んでもメディア・リテラシーを理解できなければ、オツムの程度はサル以下といわれても仕方がない。

そして、当サイトでもリンクさせていただいているおない内科クリニック副院長の、小内亨『お医者さんも戸惑う健康情報を見抜く』(日経BP社)も必見だ。日経メディカルオンラインで連載していたコラムをまとめたもので、テレビやラジオ、インターネットを通して提供される玉石混淆の健康情報の中から、信用できる情報を見抜くコツを伝授してくれる。クワッカリーを見分けるにもよい参考書である。

以上の3冊を、TMSジャパン⇒「お勧めの本」⇒「現代医学」に追加したので、是非ともメディア・リテラシーを育んでほしい。きっと世界観が変わると思う。



ちなみに、今は在庫切れになっているが、小内亨『危ない健康食品&民間療法の見分け方―それでもあなたは信じますか!』(フットワーク出版)も紹介しておこう。



posted by 長谷川 淳史 at 00:07| 医療システム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする