いつものファミレスで食事をしていると、ふと右隣の席でグラスワインを飲んでいるおばあさんがいることに気づいた。
75歳くらいだろうか、何も食べずに赤ワインをちびりちびりと美味しそうに飲んでいる。やがて2杯目に白ワインをオーダーしていた。
左隣の席は、職場の愚痴を彼女に聴いてもらっているしょぼくれた男性。左斜め向かいは、怪しげな霊感商法の熱のこもったセールストーク。右斜め向かいは、女子高生たちのキャピキャピトーク。
そんな中、ひとり静かにワインを飲んでいるおばあさんに俄然興味がわいてきた。
「ずいぶん美味しそうにワインを飲んでらっしゃいますねぇ。お住まいはこのあたりなんですか?」
この赤い彗星としたことが、あろうことか老婆をナンパしている!
「ええ、ワインが大好きなんです。家は3つほど先の駅なんですよ。でも今日は、バイトの女の子が最後の日だと聞いたので会いに来たんです」
なんと優しい心の持ち主なのだろう。ひとりのアルバイトに別れを告げるために、わざわざ電車に乗ってワインを飲みに来たというのだ。
「何も召し上がっていらっしゃらないようですけど、モッツァレラチーズなんかはいかがですか? 僕にご馳走させていただけませんか?」
299円だけど、おおばあさんのまごころに感動してオーダーした。
「この方にモッツァレラチーズをひとつお願いします。僕がお支払いしますから」
しばらくして、お店の女の子がモッツァレラチーズをおばあさんのテーブルに持ってきてくれた。そして伝票を赤い彗星のテーブルに一度置いたのだが、すぐに握りつぶして自分のポケットに入れるのを見逃さなかった。どういうつもりだろう・・・。
おばあさんとはいろんな話をした。昔は転勤族だったこと。初めて東京に来た時、言葉が乱暴なのでなかなか馴染めなかったこと。親の介護のために数年前に仕事をやめたこと。このファミレスにはよく来ること。ワインが大好きだということなどなど。
「では、ごゆっくりワインをお楽しみください」
そういって席を立ち、目の前の伝票を持って会計に向かった。
「あのぅ。あそこのおばあさんのモッツァレラチーズは、僕がオーダーしたんですけど伝票がないんです」
そういうと会計の男性店員は、チラッとおばあさんの方に目をやった。
「かしこまりました。ではその分も付けさせていただきます」
そういいながらレジスターに299円を加える操作をしていたが、結局、合計金額からまた299円を差し引いていた。
なるほど。このファミレスでは、常連であるあのおばあさんをとても大切にしているのか。そういうことならいいだろう。
気づかないふりをしてファミレスを出た。まごころってまだ残ってるんだなぁ。久しぶりに胸が熱くなった。










