カナダのブースとランダーの腰痛疾患に対する画像診断装置の開発および適用性をテーマにした672件の論文を検討したレビューでは、そのほとんどが診断技術に関する研究であり、臨床的有用性(診断精度、治療への影響、患者の転帰、費用対効果など)を検討した研究はきわめて少なかったことから、脊椎専門医が臨床で画像検査を試みる際は、これらの研究をいかに解釈して患者に適用するかが非常に重要だと指摘している(Boos N & Lander PH,1996)。
オランダのヴァン・トゥルデルらのX線所見と非特異的腰痛との因果関係に関する35件の論文を検討したレビューでは、X線撮影で発見される脊椎分離症、脊椎辷り症、二分脊椎、腰仙移行椎、変形性脊椎症、ショイエルマン病(思春期に発生する脊柱後彎)と、非特異的腰痛との間に関連性は認められなかった。ただし、椎間狭小、骨棘形成、硬化像などの退行変性は非特異的腰痛との関連性を示したが、オッズ比が1.2〜3.3と低く、研究デザインにも問題があったことなどから、X線異常所見と非特異的腰痛との因果関係を示す証拠はひとつもないと結論づけている(van Tulder MW.et al,1997)。
アメリカのジャーヴィックとデーヨの腰痛に対する画像検査の診断精度を検討したレビューでは、アメリカのガイドライン(Clinical Practice Guideline No.14;Acute Low Back Problems in Adults,1994)の勧告と同じ結論にいたっている。つまり、重大な全身疾患の疑いのない50歳未満の成人患者に画像検査は必要なく、50歳以上で重大疾患の疑いのある患者には、単純X線撮影と簡単な臨床検査でほぼ完全に除外できる。したがって、CTやMRIといった高度な画像検査の実施は、手術を検討している患者か重大な全身疾患が強く疑われる患者に限定すべきだとしている(Jarvik JD & Deyo RA,2002)。
アメリカのザールのレビューは、慢性腰痛の診断に行なわれるディスコグラフィー(椎間板造影)、椎間関節ブロック、神経根ブロック、坐骨神経ブロック、脊髄神経後枝ブロックなどの侵襲的(正常な組織を傷つける)検査法を検討したところ、侵襲的検査法の診断精度にはそれぞれ特有の限界があったことから、慢性腰痛の原因の診断には高い診断精度と再現性が必要だと強調している(Saal JS,2002)。
アメリカのリッテンバーグらの骨シンチグラフィー(SPECT)の臨床的有用性を検討したレビューでは、慢性腰痛に対する骨シンチグラフィーの適用性については臨床試験による裏づけがなく、臨床的有用性と費用対効果も明らかではないが、骨シンチグラフィーは脊椎固定術後の固定に失敗した偽関節の検出、幼い子どもや思春期(脊椎分離症、類骨骨腫)、未成年者(拒食症による疲労骨折やホルモン異常)の腰痛の評価、および悪性腫瘍か良性腫瘍かの鑑別に有効だという限定的証拠があるとしている(Littenberg B.et al,1995)。
アメリカのカラギーとハンニバルのレビューでは、MRIで椎間板内に高信号域(白く映る部分)が認められるのは、ディスコグラフィー陽性(造影剤注入時に痛みが再現する)患者で73%、無症状の健常者で69%だったことを明らかにしている。これは椎間板の異常(高信号域)が慢性腰痛の原因ではないことを示す証拠であり、造影剤注入時に痛みが出現する健常者は大勢いる、造影剤注入時の痛みと心理テストや身体化障害、精神的苦痛、補償問題との間には関連性がある、脊椎疾患以外の患者も造影剤注入時に痛みを訴えるという事実から、ディスコグラフィーの診断価値は低いと結論づけている(Carragee EJ & Hannibal M,2004)。
これらの体系的レビューに加え、腰痛の画像検査に関する37件の論文を厳密に検討した結果(Kanmaz B.et al,1998)(Dolan AL.et al,1996)(Kendrick D.et al,2001)(Kendrick D.et al,2001)(Miller P.et al,2002)(Jarvik JG.et al,2003)(van den Bosch MA.et al,2004)(Pitkanen MT.et al,2002)(Gillan MG.et al,2001)(Kerry S.et al,2002)(Kerry S.et al,2000)(Gilbert FJ.et al,2004)(Gilbert FJ.et al,2004)(Hollingworth W.et al,2003)(Joines JD.et al,2001)(Gron P.et al,2000)(Deyo RA & Diehl AK,1988)(Kosuda S.et al,1996)(Yamato M.et al,1998)(Kent DL.et al,1992)(Modic Mt.et al,1985)(Boden SD.et al,1990)(Jarvik JJ.et al,1990)(Jensen MC.et al,1994)(Rankine JJ.et al,1999)(Savage RA.et al,1997)(Stadnik TW.et al,1998)(Weishaupt D.et al,1998)(Aprill C & Bogduk N,1992)(Yoshida H.et al,2002)(Schwarzer AC.et al,1995)(Carragee EJ.et al,2000)(Smith BM.et al,1998)(Schwarzer AC.et al,1994)(Schwarzer AC.et al,1995)(Schwarzer AC.et al,1994)(Schwarzer AC.et al,1995)、次の事実が明らかとなった。
【1】非特異的慢性腰痛患者にX線撮影は行なうべきでないという中等度の証拠がある(レベルB)。
【2】神経根症状、もしくは化膿性椎間板炎や悪性腫瘍の疑いが強い患者の画像検査には、MRIが最適であるという中等度の証拠がある(レベルB)。
【3】椎間関節ブロック、MRI、ディスコグラフィー(椎間板造影)は、椎間関節や椎間板に起因する痛みの診断法として信頼できないという中等度の証拠がある(レベルB)。
【4】骨シンチグラフィーとSPECTは、脊椎固定術後の偽関節、圧迫骨折、悪性腫瘍、椎間関節症候群の診断に役立つ可能性がある(レベルC)。
これらのエビデンスに基づきヨーロッパガイドラインは、非特異的慢性腰痛に対するX線撮影と、椎間関節や椎間板に起因する痛みを診断するためのMRI、CT、椎間関節ブック、ディスコグラフィーは推奨しないとし、レッドフラッグや神経根症状の評価にはMRIを推奨すると勧告している。